Whistler to The East
さて、3月の事を振り返ろうか。
日本で過ごした慌ただしく、目紛しく景色が過ぎ去っていった1ヶ月が終わり、1月の春のような様相とはうってかわりやっと冬らしくなったウィスラーに舞い戻った。
空港に迎えに来てくれたHEART FILMSのフィルマーKEIJI君は、2時間で来れる空港までの道のりを、トレーラーの大きな事故のおかげで6時間ほどかけ迎えに来てくれた。
僕らは空港でコーヒーとマフィン、パソコンとノートを長めながら、ぼーっとこれからの2ヶ月間の事を想像していた。
そう、今回は僕ら。
一緒にカナダに来た先輩というのかなんというのか、僕がカナダに来るきっかけとなった人、小西隆文と一緒にカナダへ来た。
コニさん(小西隆文)と一緒に滑った事はほぼ、、ない(笑)。が、1年半前に、カナダ来いよ!と言ってくれた人だ。
それにカナダでスノーボーダーと撮影する機会が今までほぼなかった。
スキーヤーと撮影するのは新鮮でもちろん面白いのだけれど、
「カナダでスノーボーダーと滑れる。」
そんな想いと、今回は2ヶ月弱の行程の中で、
「1ヶ月のキャンプトリップ」
という1ヶ月前にはなかった楽しみが待っていた。
想像しようにも想像出来ない。
その訳はコニさんの滑りも、キャンプトリップに行くというカナダのなんちゃらって場所も知らなかったから。
もちろん調べているし、映像で見たりしているけど、自分の目で見ない事には、経験してない事は正確にはわからない。
今だから言える事は、想像以上に過酷だった。という事。
その時は何も考えれなかったし、なんとかなるか。なんて思ってたのが甘かったのかもしれない。
ウィスラーに戻ると道路に雪があった。
12月、1月には見れなかった分、新鮮な感じがしたが、どちらかというとそれを新鮮に感じる方が新鮮なのか。
早速、モービルの準備や撮影の準備に取りかかる。
こっちでは身体一つでは滑りに行けない。イチイチやらなければいけない事が多い。
でもこれはこっちではみんなやっている、スタンダードな事。
晴れの日は撮影へ、天気の悪い日はゲレンデか、撮影の準備か、キャンプトリップの準備か、たまにオフを取ってゆっくりした一日を過ごす。
久しぶりのモービルは爽快で、意外に運転出来るな!と思ったが、数分後にはスタックや登りたいところを登れない。
そう!これこれ!久しぶりのエンジン音に身を包み、辺りの山を眺めながら奥へ奥へと進んで行く。
とまぁ、そんな楽しみながらいけたらいいのだが、実際は運転に、着いて行くのに必死な自分がいて、純粋に山の景色を楽しめてない自分もいる。
でも、あの真っ白な雲の上を走り回るような感覚は他では味わえない。
カナダだからこそ味わえるものなのだろう。
経験のない僕と一緒に撮影する周りは大変だろう。
なんたって、空回りが多い。
でもそれは気持ちで行動で返すしかない。
やればやるほど見える世界が変わっていく。
昨日見えなかったラインが見え、自分の行ける場所がどんどん増える。
今まで行けなかった場所へ行けて、見た事ない世界が見える。
たぶん誰もが、未体験を求めて生きてるんじゃないかな。
それが経験になって感情になって、人を作って行くんだろう。
そんな時、人を成長させるのは環境だなと実感する。
そしてプッシュしてくれる仲間の存在。
これはスノーボードの世界に限った事ではない。
撮影が終わり車まで戻り、モービルを荷台に乗せる。
ガシャーン!と辺りにじめっとした音が響きわたる。
Wow! Ho! 盛り上がる周りの声。飛び散る車の後部ガラス。
疲れきった僕には落ち込む元気も、何でそうなったのかもよくわからない。
写真がないって事は写真を撮る気力もなかったんだろうか。
こんな事は最初はよくある出来事。
気を取り直して、撮影へ!と思うが請求書を見てまた凹む。
ある日、天気も良いのにほぼ滑れない日があった。
自分には滑れる場所がイメージできなかった。みんなが数本滑る中、自分は挑戦さえ出来なかった。
いつもより大きい山、自分の頭の中を超えている斜面、想像出来ないライン。
シーズンを乗り切った今なら、確実に滑れるしめちゃくちゃ滑りたい。
でもその時は出来なかった。
山の場面では少しの経験が大きな差になる。
山はゲレンデみたいにたくさん滑れる訳ではないので、それまでの経験がものをいう。
コニさんはパッとラインを見極め、ささっ~っと滑り、そしてまた一本。
これがカナダ1年目と8年目の差。経験値が全然違う。
経験から得る技術の差を見せられた日だった。
試行錯誤を繰り返すウィスラーでの生活。
撮影をし、キャンプトリップの荷物を集め、車の窓ガラスを直し、毎日がぱらぱらと過ぎ去っていく。
さぁ、いよいよ1ヶ月のキャンプの旅への出発の時。
ウィスラーを出発し、900kmほど離れたゴールデンという街を目指す。
トラックにトレーラーを付け、スノーモービル3台にスノーボードの撮影道具、テントなどの宿泊道具、カメラなどを充電する為の発電機、モービルのオイル、ガソリン、
細かく言うときりがないけど、結構な荷物だった事は言うまでもない。
それらをパズルのように、ラチェットを駆使して固定する。
これからどんな1ヶ月になるのか。
想像のつかないこれからに僕は期待を膨らませていた。
”冒険”という言葉にワクワクしない男はいないんじゃないのか?
そして、想像のつきようのない世界が待っていた。
まずは500kmくらい進んだところにある、Sicamous(シカマス)という街にあるスポット、Eagle Passを目指す。
ここでは3日ほど撮影をする予定だ。
Eagle PassはカナダBC州のFavorite Overall Snowmobiling Areaにも選ばれている場所。
カナダのスノーモービラーが選ぶBC州で一番良い所とだけあって、魅力的な地形がたくさんある。
葉が焼け落ちた木がたくさん生えていて、他とは違った景色が魅力的な理由の一つかもしれない。
この写真の場所ももし木がこんな風でなかったら、滑ってなかっただろう。
そして、スノーモービルのテクニックも必要とされる。
Whistlerはグレイシャー(氷河)なので木はほとんどなく広いバーンが続き、木の事なんて考えることはほとんどない。
でもEagle Passはタイトな木の間を縫うように走らなければならない。
それが難しいけど面白いというか、やりがいがある。
撮影に行くのも帰りもアドベンチャー。
そして帰ってからもアドベンチャー。
これが僕たちの”家”。
ここはスノーモービルへ行く際に車を停めていく駐車場の端。
僕らのオススメはこの白いテント。
中にLEDが付いていて上にソーラーパネルを付けれる。
それを知らずに買っていた僕らはそのサプライズに喜び、この1ヶ月のLEDの活躍は計り知れない。
普段、日常的に存在している明かり。
日常生活で電球1つ切れてもなんともないが、こうゆう明かりのない場所に来るとその大切さを知る。
場所を明るくするだけじゃなく、気分も明るくしてくれる。
初日の撮影を終え家に帰って来ると家が吹き飛んでいて、屋根が少し曲がっていた。
なんて事も普通の生活では味わえない。
夜になると一気に寒くなり、綺麗な星が姿を現す。
テント、いや”家”の中の会話は「寒い」に関する話題が7割を超える。
3月20日に始まった旅、寒くて当然だった。
焚き火でもしようか。
それも当然の流れだ。
火というのは身も心も暖かくしてくれる。
なんて良く聞くが、僕はこの意味をやっとこの旅で実感したように思う。
便利な日常から一歩遠ざかると、一気に自分の弱さに直面する。
寒い国の人より、温かい国の人の方が陽気なように。温度は人の心を変える力を持っているものだと感じる。
火を見ているだけで心が落ち着くのは何故なんだろか。
身が暖かくなる事意外にも、あのオレンジ色の光りは視覚を刺激し、頭の中の色を変える。
朝起きると、ブーツは凍っている。
その凍ったブーツを履き、モービルを走らせる。
吹き抜ける風が手に突き刺さり指先が凍傷になりそうになる。
キャンプトリップという楽しそうな淡い期待を軽く踏みつぶされ、火の温もりを感じながら僕らの旅は始まった。
あいにくの天気の中、光りの隙間を見て撮影をした3日間が終わり、僕らはGoldenに向け出発した。
Goldenの星空もまた綺麗だ。
ここでは約10日間ほどの滞在の予定。
その後は街から100kmほど山奥にある、Chatter Creakという場所に約2週間行く。
まだ始まって4日目。終わりが遠く感じる。
そして、まだ出発してから1回もシャワーを浴びていない。
インターネットや電波から解き放たれた生活。
電気や水、ガスからも解き放たれていると言ってもいいのかもしれない。
ひねったら水が出る蛇口もなければ、コンセントを刺す場所も、コンロも暖かい風が出てくる装置もない。
もっと言うと、壁も、屋根も、ないに等しい。
普段とはかけ離れた生活から得られるものは、光りの優しさや、火の本当の温かさ、壁の温もり、便利な暮らしからは決して感じれない感謝の気持ち。
この旅の中で数日、家やホテルで泊まった時があった。
その時のシャワーの蛇口をひねりお湯が出た時の感動や、壁のある場所で寝る事の安心感、明るい電気。
お湯が出た時は無意識に「おぉーーー!!」と言い、「壁やばい~!すきま風とかないし!」「床やばい~」とみんなで言い、普段寒いところにいた分、暖房が熱く感じたり、心の奥底からこんな気持ちになった事は今までなかった。
この旅で浴びたシャワーは5回ほど。
あのお湯がシャワーヘッドから優しく降り注いで来た時の感動は忘れられない。
本当は普段から感謝するべきなのだ。
便利な分、何かが犠牲になり、誰かが働いている。
分かっているけど、分かりずらい部分だ。
自然のリズムで生活を送り日々山へ入っていると、天気の流れや日々の気候の変化に気付くようになる。
何かの情報ではなく、自分の身体で感じる感覚。
”なんとなく”がわかるようになってくる。
便利さと引き換えに得られる自然の力なのかもしれない。
ここはGorman Lakeというスポット。
トレイルを進むと目の前に大きな岩が現れる。
その岩を横目に奥へ進むと、また大きな岩が、そしてその奥には、また、、、
初めての場所でまず始める事は、全体の地形を知る事。
地図を見てモービルで走り回り、そのスポット全体の雰囲気を掴む。
滑りたい場所や、斜面によっての雪の状態や違い、光りの当たる時間や、それによってどれだけ雪に影響があるか。
これまでの気温や積雪の変化や、これからの変化。様々な事を考えながらスポット全体を見て回る。
左ピークからが僕、右ピークからコニさん。
下からと上からの景色は違うのはもちろんだけど、少し横へ回ると、それもまた印象がすごく変わる。
もう一枚上の左の写真も同じ斜面。二人でピークを目指している所。
僕は左手前ピークからドロップ、コニさんは中央奥ピークからドロップ。
そして目線カメラ。と3つのアングルを見比べながら見てもらうのも面白いんじゃないだろうか?
私ならどこを滑るだろう? そんな気持ちで見るのも面白いと思う。
上と下、横、それぞれの情報から3Dで自分の滑りをイメージし、あとは滑り降りるだけ。
これを繰り返し、目から入るイメージと実際の滑りをリンクさせていく事が、経験となる。
山は大きく、その奥行きを判断するのが難しい。奥行きとは、斜度や対象物の大きさに関係する。
目が慣れていないと中々見ているだけじゃわからない。
経験の中でしか得られない技術だ。
Gormanの岩は大きくそびえ立つ。
写真左のボトムにある木のエリアの中にモービル2台が止まっているのが見えるだろうか。
フィルマーのKEIJI君とコニさんはそこで待機している。
山の上には自分一人。景色は最高だ。
目の前の斜面を滑りたかったら、登らなければならない。
モービルではあまり急な場所へはいけないので、大きな斜面になると最終的にはハイクが一番大事になる。
目的の斜面と同じ面を登る事もあれば、その後ろ側の面から登る事もある。
旅も4月に入り日に日に温かさを感じるようになる季節。
雪が良い場所は日のあまり当たらない北系の斜面。
そこを滑るためには反対の南斜面を登らなければならない。
太陽はガンガンあたり、歩き出すともろそうな雪。
雪は薄く、ツルツルとした岩肌の上に雪がのっているように感じる。
少し嫌な感じがしながらも、反対側の斜面を滑らない事にはGormanを離れられない。
もう少しで稜線へ出れるというところで、ワッフ音と共に目の前に横数メートルのクラックが入る。
幸いにもクラックは浅く、短い。その場を抜け出し、とにかくダッシュで稜線へ出る。
稜線へ出るとカナダらしい景色が広がる。
右も左も斜面。滑る場所を確認しつつ、ピークへ向けて稜線を歩いていく。
滑る斜面の雪の状態は良さそうだ。登りの恐怖が思い浮かぶ。
もし出だしで割れたら、左の稜線へ、2ターン目で割れたら、右の壁に。
そこで大丈夫ならあとは日陰なので、大丈夫そうだ。後ろから何か来たら逃げ道はないから確認しつつ速く滑ろうか。
滑りきった時の達成感、安堵感。
心臓の強い鼓動を感じながら、笑顔になっている自分に気付く。
なぜ自分はこんなにもスノーボードが好きなのだろうか。
一歩間違えれば死ぬかもしれないような場所で笑っていられる自分が面白い。
そこを滑ったからといってお金が貰える訳ではないし、ましてや、日本人もあまりこうゆう事に興味がない。
なぜなら、日本にこんな場所はないから。答えは単純だ。
見た事もないからイメージも出来ないし、凄さも伝わらない。そりゃそうだ。
自分がスノーボードをする理由は自分を高める為。
新しい何かを与えてくれる。
スノーボードはそうゆう物だと知ってもらいたい。
楽しい、かっこいい、Yeah!、だけじゃない。
スノーボードの魅力を。
自分の行き場所はどこか、冒険の途中。
この旅はたくさんの考える時間を与えてくれた。
Gormanでの日々が過ぎていき、Chatter Creakへの旅立ちが近づく。
春に近づく空気の変化を肌で感じながら、気付けば2週間が過ぎていた。
お風呂に入れない生活にも慣れつつある。
Chatter Creakへは70kmのオフロードが待っているらしい。
果たしてどんな場所なのか。
想像出来ないからこそ、面白い。
旅はまだまだ続く。
Text & Photo : Kazushige Fujita
Location : Canada BC (Whistler, Pemberton, Sicamous, Eagle pass, Golden, Gorman lake)
※この模様は秋発売のDVD「HEART FILMS vol.8」にてご覧頂けます。
カナダの壮大で綺麗な景色の中でのスノーボード、スキーのライディング、そして生活。
ぜひ手に取りご覧ください。
彼独自の目線から綴られるコンテンツが特設サイトにて定期的に公開されています
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