SMITH QUALITYを探る 〜50年の歴史が生み出す成熟の品質〜

人間は外部から受け入れる情報の9割を視覚に頼っていると言われる。大胆なスピードと精度の高い反応性が求められるアクションスポーツにおいて、“見ること”をサポートするとはどういうことなのか。革新的な発明から50年。半世紀にわたる技術改革の中でSMITHが導き出した答えを、ゴーグルの中に探してみたい。

 

SMITH ゴーグル50周年
50年の歴史の中で、スミスが生み出してきた革新的プロダクトの数々。 左上/1969年に製造された最初のスキーゴーグル。現在のゴーグルと変わらないデザインセンスには驚くばかりだ。 右上/1979年製ターボファン。ゴーグルに小型ファンを内蔵して曇り止めを狙った。スミスはあらゆる可能性に挑戦し続けてきたのだ。 左下/1995年製V3。スミスは曇らない、を決定づけた同社の代表的製品。 右下/2015年モデルのI/O。2007年、素早く簡単なレンズ交換を可能にする画期的なシステムを搭載してデビュー。

50年の歴史を受け継いだI/O 7

2015年、スミスは創業から50年を迎えた。半世紀にわたるスミスの歴史は、技術開発と革新的製品で綴られる、テクノロジーの歴史だ。
日本ではスノーゴーグルで知られるスミスだが、本国アメリカではアクションスポーツのフィールドで広く認知されている。スキーやスノーボードはもちろん、MTB、釣り、モトクロス。さまざまなジャンルのプレイヤーに支持されてきたのは、その製品に確かな効果があったからだ。故にこう言われてきた。
「一度スミスを使えば、他に選ぶものがなくなる」
こうしたスミスの高い技術力をフルに投入したモデルとして2007年に登場したスノーゴーグルが「I/O(アイオー)」だ。I/OとはInterchangeable Optics(交換可能な光学製品)の略。その名の通り、世界で始めて簡単なレンズ交換システムを搭載してのデビューとなった。
曇りにくく光学的に精密なレンズを、状況に合わせて使い分ける。I/Oで結実させたこの思想は、デビューから7年を経てI/O 7でさらに進化している。
レンズ交換は新たにピボットシステムを開発。世の中にはさまざまなレンズ交換機構があるが、その中でも最もシンプルな手法をとることで軽量化を果たし、ゴーグルの重心位置を顔に近づけた。また好評だった装着感をさらに煮詰め、アウトリガーとゴーグルストラップとの連結には二段階回転軸を採用。ヘルメット着用時のフィット感を大幅に向上させている。
I/O 7に見られるさまざまなテクノロジー。その一つ一つが、スミスというブランドのコンセプトを表している。つまり「見えること」を追求する。それはスミスが誕生した時、すでに具現化されていた考え方なのだ。

 

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いつの時代でも、過去の良いものとその時代の最先端を融合させてきた。世代を超えたプロダクトとして継承されている「アーカイブコレクション」にはロゴの変遷、色使いの変わり様などに時代の空気を読み取ることができる。左から時計回りに1989年、1989年、1991年、1993年、1994年モデル。

はじまりは自作ダブルレンズ

1965年、ひとりの歯科医がゴーグルを自作した。これこそ、今日のすべてのスノーボーダーの滑りを支えていると言っても過言ではない発明となった。彼の名はボブ・スミス。我々同様、雪に取り憑かれたスキーヤーだった。
パウダーを愛したスミス氏には不満があった。当時のゴーグルは曇りがひどく、雪が降っていると滑れないのだ。このことに嫌気がさしたスミス氏は二重窓にヒントを得て、2枚のレンズでフォーム素材を挟んだゴーグルレンズを自作したのだ。そのレンズは雪の日でも曇らず、他の人が家に閉じこもっている間にたっぷりと新雪を楽しむ贅沢を与えてくれた。こうして羨望の的となった自作ゴーグルはあっという間に評判を得、同じものが欲しいという人たちが押し寄せてきた。こうしてスミス氏は世界初となるダブルレンズのゴーグルを製造すべく、会社を起ちあげたのだ。

 

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左/ダブルレンズ内の空気圧を調整しながら、内部への水分の侵入を阻む「ポレックス・フィルター」。スミスのすべての球面レンズに採用されている。 右/紙を細かく折りたためば、表面積は劇的に増大する。「フォグレンズ・トリートメント」の微細な溝が表面積を増やして湿気に対応することは、このモデルで説明できる。

曇りにくいゴーグルのために

こうして始まったスミスは誕生から50年間、一貫して「曇らない」と評価されてきた。もちろんこれは、さまざまな技術が注ぎ込まれた結果だ。
まずはダブルレンズの内部の気圧差をコントロールする「ポレックス・フィルター」がある。これによってダブルレンズ内部を完全防水とし、曇りをシャットアウトしているのだ。さらにインナーレンズの特殊性が挙げられる。
通常、インナーレンズで曇り止めを狙う場合はコーティングが一般的だ。が、このコート剤は非常に弱い。インナーレンズが曇っても拭いてはいけないというのは、コート剤が剥がれてしまうからだ。またコーティングはあくまでもレンズ表面の結露をしにくくしているだけなので、レンズ全体がしっとり濡れて像が歪むといった事態に繋がることがある。
スミスの場合、インナーレンズにコート剤は使っていない。インナーレンズ自体が湿気を吸収する特殊樹脂で作られているのだ。それはたとえれば湿気をためることができる桶のようなものだ。この桶に余裕がある間は湿気を吸って曇りにくさが持続する。ちなみにコーティング式のレンズの場合、この桶の容量はゼロだ。
加えてスミスのインナーレンズには光学的に無視できる微小なサイズのしわが刻まれている。「フォグレンズ・トリートメント」と名付けられたこの構造はレンズ表面積の増大に繋がり、より効果的に湿気を吸収して曇りを防止してくれる。最新のIO 7を始め、スミスのレンズに搭載されている「5X アンチフォグ」は従来のスミス製レンズの5倍も曇りにくくなっているが、それにはこの「フォグレンズ・トリートメント」が大きく貢献しているのだ。ちなみに、吸収した湿気は乾かすことで放出され、桶はまた空になる。コーティングを必要としないので神経質な扱いが不要になった点も大きなメリットだ。

 

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スミス・ジャパンでマーケティングを担当する山田氏。自身も熱狂的なスノーボーダーであり、かつてはゲレンデに籠もり、屋内ゲレンデでインストラクターを務めたこともある。現場で身につけた滑り手としての肌感覚が、スミスを熱く実直に語らせる。

冷静に、真摯に製品を伝える

とは言え、スミスのゴーグルが「絶対曇らない」というわけではない。
前述の桶がいっぱいになれば、それ以上の湿気は曇りとしてレンズ表面に結露してしまう。使い方によっては簡単に桶を溢れさせることが起こりうるのだ。これに対してスミスではこうコメントしている。
「スミスが曇りにくいことは自信を持って言えます。しかし、いかにスミスと言えども分厚いバラクラバと併用するなど、呼気がゴーグル内に流入し始めると曇ってしまいます。また、ゴーグルをしたままハイクアップをしたりすれば体温上昇によって曇ることもあります。
何をしても曇らないゴーグルは我々が理想としている製品ですが、残念ながらまだ開発に成功はしていないのです」
闇雲に「曇らない! 完璧!」などとはやし立てない。製品の特性を理解してもらえるよう、道具としての正しい使い方を冷静にアナウンスする。この真摯な態度こそ、真面目に製品作りに取り組んできた50年の重みに他ならない。

 

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左/アメリカ本社の開発室。ひとつひとつのテストは驚くほど細かい。耐衝撃性や光学的な歪みを測定し、検査にパスしない設計は容赦なく設計部門に戻される。 右/I/O 7のレンズ。アウターレンズには傷がつきにくく割れにくい、CLASS1に区分される高精度ポリカーボネイトを使用。アクシデントの際に破損して目や顔を傷つけることがないよう、インナーレンズはしなやかで柔らかいものを採用している。

見えることに直結するテクノロジー

「よく見えること」。スミスのコンセプトはブランドが立ち上がった日から変わっていない。見えることは滑り手のパフォーマンスに直結しているとして、あらゆる技術は光学的精度を支えるために見直されてきた。そう、スミスは機能性主義なのだ。見た目と実用性があれば、まず実用性を選び取る。そうして、滑り手のパフォーマンスを損なわない特性を追求してきた。
これに対する回答がまず、TLTと呼ばれる「テーパードレンズテクノロジー」だ。スミスでは湾曲したレンズでも対象物が歪んで見えないよう、レンズの厚さを中央部から外側に向かうにつれて少しずつ薄くしている。これは球面レンズだけでなく平面レンズにも採用されており、平面レンズでは最初からレンズを湾曲させて光学的な歪みを排除しているのだ。
またレンズに傷がつきにくいことも、クリアな視界確保には欠かせない。スミスのアウターレンズには透明度が高く耐衝撃性と耐傷性に富んだCLASS1のポリカーボネイトを使用。サングラスやメガネのレンズにも使用されるほど光学精度の高い素材を採用している。
対してインナーレンズは柔らかい特殊樹脂を採りいれており、レンズを強く押しても割れない柔軟さを備えている。
晴天、曇天、降雪時など、あらゆる状況に対応する豊富なレンズカラーも大きな魅力だ。中でもレッドセンサーミラーは、スミスの契約ライダーたちから絶大な支持を得ている。淡いローズカラーのレンズは曇天から薄曇りまでをカバーし、日本人の目と日本の気候を考えたときに適応範囲が広いと評判だ。もちろん晴天時にはグリーンSOL-Xミラーやブラックアウトなども好まれる。こうした豊富なレンズを自由に選び、ストレスなく付け替えできること。スミスが世界に先駆けてレンズ交換システムを採用したのは、このレンズバリエーションを徹底的に使いこなし、滑り手のパフォーマンスを最大限に発揮するためなのだ。

 

SMITH OPTICS

 

 

TEXT:TAKURO HAYASHI
PHOTO:ALI