広野あさみ Interview By Yukie HouseのSnowboarder’s Diary Vol.1

Yukie HouseのSnowboarder’s Diary Vol.1

Yukie Houseとは?

スノーボードライフをより充実させるため、家族とアメリカ・カリフォルニア州・マンモスマウンテンに生活の拠点を移し、新生活をスタートさせた上田ユキエ。マンモスには日本からも多くのスノーボーダーが訪れ、彼女の家に宿泊するという “マンモス民宿のユキエ女将” 化が定着しているようだ。
 この企画では、上田ユキエの自宅「Yukie House」に訪れたスノーボーダーに、自らがフォーカスを当てインタビューや取材を実施。自身も現役ライダーというゲストたちとの良い距離感の中で、お互い密なコミュニケーションをとりながら、普段あまり知ることのないスノーボーダーたちのライフスタイルや素直な気持ちをお伝えする。

第1回目は、海外遠征の費用を自ら集め、自費でコーチを連れて強い意志と目標を立て6月頭から7月末までアメリカへやってきた広野あさみにFocus。

広野あさみ Interview

By Yukie Ueda

広野あさみ、26歳。彼女は2018年に開催される平昌オリンピック出場に向け国内外のコンテストを転戦。夢見てきたオリンピック出場への切符に初めて手が届きそうになっている。先日発表された強化選手指定ではC指定。ギリギリでも絶対にどうにか食いつきたい。諦めないという根性があさみの全身から伝わって来る。2000年代生まれの選手がトップに数多く食い込んでいるこの世界で決して若手ではなく、かと言ってまだベテランでもない。彼女はオリンピック直前の今を一体どんな思いで戦い続けているのだろうか?
 今回のアメリカ遠征では、数々起こるハプニングを乗り越え、マウンドフッドで目標にしていた1080をほぼ完成させた。日本への帰国直前、リラックスしたひと時を私の自宅で過ごしていたあさみへインタビューした。

1_IMG_3413のコピーオリンピックの出場へ向け後悔したくない。
応援してくれる人がいるから負けたくない

– オリンピック出場枠をかけてシーズン終わりからの戦い。自費で信用するコーチを連れてカリフォルニア・マンモスとオレゴン・フッドで約2ヶ月。いろんなハプニングにも見舞われながら、精神的にも鍛えられているように見えるけれど、今の気持ちを聞かせて。
昨シーズンは今までにない数の大会や海外遠征を経験したシーズンでした。大会がないこの時期は休暇しながら日本で練習したかったところですが、アメリカ行きを決断しました。その理由は、今の私のスキルはまだまだ足りない部分があって、ワールドカップの出場基準も、世界選手権の出場基準もギリギリ首の皮一枚で繋がっている状態です。それでもまだ私にはチャンスがあって。オリンピックに出られるか出られないかギリギリならば後悔したくないし、やれることをやろうと思ってこのアメリカ遠征を決めました。
 実際のところ、資金面もカツカツ。むしろ足りないくらいで、借金覚悟で決めたことなので、なにもかも節約です。バックパッカー生活をしたり、レンタカーを借りずバスで移動していました。アスリートはいかにストレスフリーな環境で練習に集中して打ち込めるかが大事だと思います。でも私はこの節約生活によってお金の大切さがわかり、ハングリー精神が出て現在の環境にあぐらをかかず感謝の気持ちを忘れずに過ごせた気がしています。

今回のアメリカ遠征では決して贅沢はせず移動もバスで
今回のアメリカ遠征では決して贅沢はせず移動もバスで
最後まで夢を諦めず自分が目指すライディングを完成させる
最後まで夢を諦めず自分が目指すライディングを完成させる
マウンドフッドでは手応えを掴むことができたあさみ
マンモスでのスノーボーディングは手応えを掴むことができた
本場カリフォルニアでのスケートもオフトレーニングのひとつ
本場カリフォルニアでのスケートもオフトレーニングのひとつ

– あさみは前回のソチオリンピックの時は出場を目指していた?
当時はプロ昇格という目標を達成したところでした。次の目標を何にしようかと考えていた時に、スロープスタイルがオリンピック種目に決まったので、目標はでっかくオリンピック!と思い、目指し始めていました。当時、運良くワールドカップには出場できたのですが、ポイントが届かずオリンピックイヤーのワールドカップには出場できませんでした。

– 今回同行した阪西コーチへの絶大な信頼はどこから? またコーチをつけるというのは、自分で練習するのとはどう違いがあり、どこに価値を感じている?
私がスロープスタイルを始めたのは阪西コーチがきっかけでした。360も立てるか立てないか怪しいくらいだったんですが、阪西コーチに教えてもらってからメキメキ上手くなって技数がぐんと増えました。自分は感覚派なので、理論派の阪西コーチが理論を教えてくれて、出来ない技に悩む時間が短縮されました。自分の力だけだと技を何年もかけて習得することになるんですが、コーチングを受けると短時間で新たな技を手に入れられるのがすごくいいところだと思います。それに、阪西コーチは技術だけでなくメンタル面も教えてくれるので助けられています。私が怖くて躊躇していたりすると、有無を言わさず「次これいってみよう!」と、背中を押してくれます。選手の出来る出来ないを見極めて背中を押してくれるんです。

今回アメリカ遠征を同行した阪西コーチとの食事のひとコマ
今回のアメリカ遠征を同行してもらった信頼のおける阪西コーチと食事でリラックスした1コマ
共に生活しながらベストなアドバイスをもらう
共に生活しながらベストなアドバイスをもらう

– あさみは26歳。この世界では決して若手ではないよね。今自分の置かれている立場、不安も自信もあると思う。絶対に諦めたくないと思う強い気持ちはどこから? そして負けそうになる時の心の奥の気持ちとどう戦っているの?
応援してくれる人がいるから負けたくないっていう強い気持ちがあります。遠征に向かう飛行機に乗ってる時に自分の置かれている状況に怖くなったり、何かに挑戦する時「お前には無理だ」っていう声が、心の中から聞こえて来たりします。決して取り憑かれてるわけじゃないですけど(笑)。そういう弱い自分には絶対負けたくないと思っています。回りからは優しすぎるとよく言われますが意外に負けず嫌いだったりするんです。自分に負けそうになった時は、20年前からずっと好きな歌手 “三浦大知さん” のポジティブで前向きな歌を聴いていつも元気をもらっています。

マウンドフッドでは目標にしていた1080をほぼ完成させたあさみ
マウンドフッドでは目標にしていた1080をほぼ完成させた

– ここまでスノーボードに没頭し時間もお金もかけているあさみは、世の中の女の子たちが楽しんできたようなことは出来ていないこともあると思うんだけど、この挑戦を終えたらやりたいことはある?
細い女の子のように痩せてみたいです(笑)。

遠征先ではスノーボードの大会やトレーニングだけでなく、ライフスタイルも楽しむ
遠征先では大会やトレーニングだけでなく、その土地のカルチャーやライフスタイルも楽しむ

– トレーニングは泊まりに来てくれた私の家でもやっていたよね。その方法にはあさみなりの工夫があると思う。体づくりにはどんな方法を取り入れているの? また体のことはいつから意識するようになった?
遠征中は、水を入れて膨らましてバーベル代わりになるものやゴムバンドなど、家でも気軽に出来るようなトレーニンググッズを持っていってます。普段からトレーナーさんに体のトレーニングメニューを作ってもらっていて、遠征中でもたまにトレーナーさんにテレビ電話をしながら自分のトレーニング姿をみてもらっています。実は私、高校時代スノーボードにハマった頃によく軽いケガをしていました。それからスノーボードの専門学校に行ってトレーニングをしっかりするようになってから、ケガをしなくなったんです。私はすごくビビりで、ケガしたくないし転ぶのも嫌いなので、しっかりとトレーニングをして体づくりを意識しています。

上田ユキエ邸にて、自身で持ち込んだグッズでトレーニング
上田ユキエ邸にて、自分で持ち込んだグッズでトレーニング
自分で作る食事も体づくりのひとつ
自分で作る栄養バランスを考えた食事も体づくりのひとつ

– 広野あさみだからこそ出来ること!負けない強い部分、もし自分で感じることがあったら教えて。(逆に自分に足りないと思うこと、コンプレックスももし伝えられたら)
私は、ケガをしにくいところと、力強い男っ気ある滑りが売りだと思っています。滑りを見た人に「男かと思った!」と、よく言われますし。逆にコンプレックスは、柔らかい滑りが苦手なので、決して自分のライディングはキレイな滑りとは言えないところかなぁ、というところです。

– あさみがスノーボードを好きな理由や魅力を感じているところを教えて。
純粋に楽しいところかな。やればやった分だけ成長できているし、自然と触れあえて、日本にも世界にもスノーボード仲間が出来て楽しさを共有できるところだと思います。

力強くアグレッシブに攻めるあさみのスタイル
力強くアグレッシブに攻めるあさみのスタイル
遠征先の国で多くの刺激を受け沢山の仲間ができるのもスノーボードならではの魅力
様々な国で多くの刺激を受け沢山の仲間ができるのもスノーボードならではの魅力
自然の恵や力を吸収し、自らのエネルギーに変えていく
自然の恵や力を吸収し、自らのエネルギーに変えていく

この4年間は自分を変える様々なことがあった。大きな壁をぶち破った自分がどう成長していくか楽しみ

– なぜオリンピックを目指すの?
影響を与えてくれた人、応援してくれた人、励ましてくれた人に恩返しがしたいからです。そして自分の可能性をどこまで引き出せるか試したいし、もっと影響力のあるライダーになりたいからです。

– これからオリンピックまでどのように過ごすの?
やれることをやって、後悔のないように進むのみです!

– 最後に一言、この記事を読んでくれた人へメッセージをもらえるかな。
オリンピックに向けてのこの4年間は様々なことがありました。スノーボードを始めてから今までトントン拍子に上手くいっていたんですが、途中で大きな壁に激突しました。精神面や技術面で滑り方が分からなくなったり、スノーボードが怖くなった時もありました。色々な重圧から、大好きだったスノーボードが嫌いになりそうになったり、何度も選手をやめようともしました。日本で1シーズン10勝以上していた時に比べ、海外の大会はレベルもぐんとあがり全く勝てなくなってしまって、負けてばっかりで自信もなくなってしまった。それでも心の中でなんとかしたい自分がいました。そんな時にいろんな人に出会い、いろんな考えや言葉をいただき、どん底にいたネガティブだった自分がようやくポジティブな方向に歩き出しました。それからはまた少しずつ前へ進み出して、今に至ります。大きな壁をぶち破った自分がこれからどう成長していくのか楽しみです。不器用な自分ですが、皆さんぜひ暖かく見守ってください。

IMG_4310★Profile
広野あさみ
1990年11月8日生まれ。富山県出身、新潟県在住。
兄の影響でスノーボードをはじめ、新潟妙高にあるJWSC(全日本ウィンタースポーツ専門学校)進学後、2011年にスノーボードクロスでプロ昇格。その後、クロスだけでなくオールラウンドスノーボーダーとして様々なコンテストや、ガールズムービー “TOMBOY” などで幅広く活躍。現在は平昌オリンピックでスロープスタイル・ビックエアー種目での出場を目指し国内外のコンテストを転戦。
Sponsor: Ogasaka, SPY, BILLABONG, FLUX, Eb’s, Showtimecollective, GALLIUM, Gopro, 富山kings, Jenny, 渋谷コラゾン, 上越さくら整体院, APAスポーツクラブ, 白雪エステ, Smilefield
オフィシャルブログ

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上田ユキエ
1973年1月22日生まれ。東京出身。カナダウィスラーでスノーボードを始め24年、ハーフパイプやビッグエアーなどの競技を経て、ガーズルムービープロダクション “LIL” を立ち上げ日本のガールズシーンを牽引。結婚を機にアメリカへ移住し6歳の息子を育てながらプロ活動を続け、現在はバックカントリーの魅力にはまり国内外の様々なフィールドを開拓中。2017年4月マンモスマウンテンに拠点を移し、よりナチュラルに山の近くで家族と新たな生活をスタートさせている。
Sponsor: K2 SNOWBOARDING, Billabong, MORISPO SPAZIO, NEFF, RONIN, ZOOT, CORAZON SHIBUYA, LALALATV
オフィシャルブログ