X-TRAIL JAM in TOKYO DOME 2007

titleX-TRAIL JAM in TOKYO DOME 2007
再認識してほしい。この大会が開催されることがいかに稀有なことかを…。
東京の都心にある全天候型球場「TOKYO DOME」。遊園地、ホテル等が隣接したこの場所に、巨大な雪のスロープが出現するというだけでもクレイジー。ここを舞台に世界トップクラスのスノーボーダー達が二日間に渡ってしのぎを削る。当然、降雪量や風に左右されることなく、しかも電車でアクセスできて街着で観戦できるスノーボードの国際大会。「X-TRAIL JAM in TOKYO DOME」。世界でも稀に見るエクセレントなこの大会を体験できるというだけでもどれだけ幸せなことだろう。念のため言っておくが、主催者の回し者ではない。

今回で7回目を迎えたこの大会。テリエ、ヨナス、ジアン、ミッヒ、ヘイキ、ニコラス、トラビス、伯、ライオ…。名前を挙げるだけでそれぞれの選手たちの渾身のトリックがフラッシュバックする。思い出の名場面に何人かの日本人が登場するものの、海外トップ選手たちのパフォーマンスには一観客として純粋に感嘆せざるをえなかった。トリックの難易度やバランス感覚においては日本人も十分な戦いを見せてきた。しかし、脚力、スタミナ、メンタルといった面においてまだまだおよばない点も多々感じられた。

しかし今回ほど、日本人選手たちが確実にその領域にまで近づいていることをひしひしと感じる大会はなかった。それも一人二人ではない。日本人のレベルが総じて上がってきたと実感した。
2007年12月8日(土)クォーターパイプ
日本人予選を勝ち上がったのは工藤洸平、ライオ田原、中井孝治、村上史行、藤田一海、笠原啓二郎の6名。そして海外招待選手らと日本人招待選手の村上大輔を含む16名が2グループにわかれ20分間のSemi Finalのジャムセッションを行う。
ジャムセッション開始からただならぬ雰囲気が会場を包んだ。その原因は間違いなく日本人選手たちである。Aグループでは中井孝治、村上史行が健闘。トラビス・ライスやアンディ・フィンチらを猛プッシュ。Bグループでも藤田一海、工藤洸平の17歳コンビが魅せる。しかも一海は最多の7本を飛び、しかもそのほとんどをメイク。若い!
Semi Finalの結果が発表された瞬間会場がどよめいた。
1.中井孝治
2.トラビス・ライス
3.アンディ・フィンチ
4.ケビン・ピアーズ
5.藤田一海
6.リスト・マティラ
7.工藤洸平
8.村上大輔
中井がトラビスを抑えての堂々の一位通過だ。それも場内納得の結果。それだけ乗れているという印象だった。さらにこの時点でのハイエストエアは工藤洸平の5m50cm。ライオの持つ5m40cmの記録を上回った。
ライオはSemi Finalのジャムでのハイエストエア狙いを公言し、一度はプラットフォーム落ちで負傷しながらも、最後の最後となるチャックをメイク!その瞬間はだれもが拳を突き上げて歓声を上げた。Semi Finalジャムセッション終了後、ライオは現役引退を発表。日本のスノーボードシーンを底上げした真の立役者に惜しみない拍手が贈られた。

そしてFinalのジャムセッション25分。
中井のビッグなトゥ・フェイキー テールグラブで始まった決勝はのっけから白熱。それもそのはず、ジャパニーズサムライダーたちの猛追に海外招待選手らが本気モード。
特筆すべきはやはり中井。マック、マック、スイッチマックとメイク。次のスイッチチャックをオールモスト、再び見せたスイッチチャックは完璧。さらにアーリーチャックでは余裕すら感じさせるビタビタのメイク。表彰台が見えて来たと確信した。一週間前にミュンヘンで行われたAir & Style優勝のケビンが得意のアーリー回転で点数を稼ぐ、大輔は恐ろしくスピードの乗ったアプローチから気合い一発ビッグ・トゥイーク!高さとはこれだけ人を高揚させるものかと改めて実感させた。過去QPで優勝したアンディもロデオ気味のフロント720やフロント900を次々にメイク。さらにシートベルトやビッグ・トゥイークでスタイルも見せる。技の多彩さと空中での安定感はやはりトラビス。トゥ・フェイキー メロングラブ、バックサイド540ノーズグラブ、バックサイド720インディグラブと毎回トリックもグラブ位置も違う。さらにチャックフリップ・トゥ・フェイキー!なんでそこからそう動く?という技のデパートっぷりを発揮。回転数では洸平、リスト、アンディがF900をメイク、一海がスムーズなバックサイド900をメイク。その後洸平とリストがフロント1080を狙うも双方メイクできず、リストの方がわずかにメイクに近かった。
Finalの結果は以下の通り。
qp-02▲左) Andy Finch /右)Kevin Pearce
qp-01▲QP RANK 1 BIB#12 Travis Rice

中井は惜しくも4位に終わった。見方によっては中井が2位か3位に入ってもおかしくない、むしろそのはずだという声も多々あった。実際、自分もそう思った。結果は結果として動かすことはできないが、間違いなく中井のパフォーマンスには多くの人が世界に肉薄するものを感じたはずだ。そして、17歳の一海と洸平には十分に世界と戦うポテンシャルを感じたはずだ。来年のこの大会、もしくはどこかの国際大会で彼らが栄冠を掲げる日はそう遠くないのではないだろうか。
qp-03▲HIGHEST AIR 村上大輔
qp-04▲WINNER Travis Rice
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2007年12月9日(日)ストレートジャンプ
明けて日曜日のStraight Jump。会場となる東京ドームには4万人のオーディエンスが詰めかけた。
一度でもこのショーを体験するとまた見たくなるのかリピーターも多いようだ。会場内でリポートする原口あきまさにマイクを向けられた観客が「4回目です」「毎回来てます」といったコメントをする。

我々SBN/雪番長にとってビッグニュースはあの布施忠が仲間に加わったこと。そして今回のX-TRAIL JAMのStraight Jumpには雪番長ライダーの平岡暁史、石川敦士、布施忠、そして雪番長フレンズでありWEB投票No.1で出場が決定したのチョコバニラボール新井が参戦している。
日本人予選で布施忠が完璧な空中姿勢のワンフット インディグラブやダブルバックフリップを見せるがランディングが合わず敗退、バニボもスイッチB900を見せるがランディングが乱れて敗退。しかしパラ男のコスチュームで会場を沸かせるなどサービス精神は旺盛。次回に期待したい。
sj-08▲SBN&雪番長フレンズ:左) RIO田原/右)バニボ

恒例の爆音とともに華やかなグランドオープニング。そして本戦予選が始まった。出場選手はマシュー・クレペル、石川敦士、リスト・マティラ、トラビス・ライス、デイビッド・ベネデク、ミッケル・バング、山口睦生、岡本圭司、平岡暁史(日本人招待選手)、アンディ・フィンチ、中井孝治、ケビン・ピアース、谷口尊人、トースタイン・ホーグモ、鈴木伯、ダニー・デイビスの16名。
まずは1本目300点オーバーをたたき出したのがリスト。フロント900 テールグラブをビタメイクで319。さらにそれを上回ったのがKJこと岡本圭司。ダブルバックフリップ インディグラブを完璧にメイクして325。そしてかつて何度も東京ドームを沸かせた鈴木伯がバックサイドロデオ900 メロングラブで文句なしの333。続くダニーがコーク気味のバックサイド720で301。なんと1本目の1位・2位を日本人が占め会場も一気にヒートアップ。しかしこれで、熱くなったのはオーディエンスだけではない。海外招待選手たちの闘志にも火がついた。
2本目、1番手のマシューがキッカーから飛び出した瞬間に「高い!」叫びたくなるようなスイッチバックサイド900インディグラブをポーク入れまくりでメイク。335の最高点をマーク。去年の覇者トラビスがダブルバックフリップのダブルグラブでマシューに次ぐ334。平岡暁史も1本目に飛びすぎてメイクならなかったダブルバックを2本目はギリギリ合わせて306で予選突破を確定。これによって通過ラインギリギリにいた敦士が9位で予選敗退決定となった。敦士は昨年の怪我を乗り越えての出場で、スイッチバックサイド720を2本ともメイクしていただけに残念だ。しかし復帰後初となる本格的な大会出場でこの結果。雪辱を晴らす日もそう遠くないはずだ。
本戦予選の結果は以下の通り。
1.マシュー・クレペル、2.トラビス・ライス、3.鈴木伯、4.岡本圭司、5.リスト・マティラ、6.平岡暁史、7.ダニー・デイビス、8.トースタイン・ホーグモ

そして、Semi Finalジャムセッション。このジャムが見たくてX-TRAIL JAMを観に来るという観客も少なくないはずだ。制限時間内本数無制限の競演。回転数や難易度に偏りがちな競技方法と違い、スタイルやバリエーションをアピールできるためスノーボードの醍醐味が詰まっているといっても過言ではないだろう。事実このジャムセッションでは数々のドラマが生まれてきた。観戦するオーディエンスたちも何かを期待し、何かの目撃者たらんとしていた。
そして歴史的な25分間がスタートした。
マシューがのっけからスイッチバックサイド900をメイク、次いでトラビスがフロントフリップto180をメイク、伯がロデオ540をメイク、KJがバックサイト720をメイク、リストがフロントサイド900をメイク、アキがノーズグラブのストレートをメイク、ダニーがCAB900をメイク、トースタインがスイッチバックサイド720をほぼメイクと、高いメイク率で一巡。
注目の選手を見ていこう。ひょうきんな言動とは裏腹にダブルバックフリップを完全にものにしているKJは、昨年トラビスが見せたダブルコークto180を視野に入れて、フロントコーク540、フロントコーク900とメイクしていく。トラビスが大好きでこの技も何度も練習したという。そんなKJの目の前でトラビスがダブルコークto180をメイク!KJも果敢に挑戦するが惜しくもメイクならず。しかしそのポテンシャルの高さは十分に発揮していた。
sj-06▲雪番長ライダー: 石川敦士(予選10位)
sj-07▲雪番長ライダー: 布施忠(日本人予選9位)

今回初参戦となったトースタインは予選ギリギリ通過ではあったが、スタイルの入ったトリックには目を見張るものがある。2本目に見せたスイッチバックサイド900はあまりにスムーズすぎて720に見えたほどだ。
こちらも北欧の選手だが3回目の出場となるリスト。こちらも確実に決めるべきところを決める。7本目ついにフロントサイド1080をビタッと決めた。
この日、もっとも切れていたのはマシュー。とにかく登る、飛ぶ、メイクするの連続。ジャムセッション中最多の9本を飛び7本をメイクした。圧巻だったのは6本目に見せたスイッチバックサイド1080!!信じられない。
そんな中、やはりこの男は健在。トラビスは1回と同じトリックを出さない。一覧するとフロントフリップto180 ○、フロント720 ○、CAB720 ○、バックサイドロデオ720 ×、ダブルコークto180 ○、スイッチバックサイド540 ○、鬼のように高いCAB900 ○、そして締めの1本我々はまたしても度肝を抜かれた。ダブルコークからのバックサイド360?!コーク回転で2回転そして横回転で1回転合計3回転つまり1080度。しかも完全にメイク!この男またもや進化している!

興奮冷めやらぬ中、Semi Finalの結果が発表された。
1.トラビス・ライス、2.マシュー・クレペル、3.リスト・マティラ、4.ダニー・デイビス、5.岡本圭司、6.トースタイン・ホーグモ、7.鈴木伯、8.平岡暁史
束の間のINTER MISSIONに続いてZEEBRAのライブが会場を温める。
sj-04▲MOST IMPRESIVE RIDER: 岡本圭司(本選5位)
sj-05▲SBN&雪番長ライダー: 平岡暁史(本選8位)

そしてついにFinal。
1本目、リストはフロント1080を失敗。
マシューがスイッチバックサイド1260を失敗。
そしてトラビスもジャムで最後に見せたダブルコーク1080を失敗。
勝負の行方はまだわからない。
2本目、アリーナはオールスタンディング状態。
そして、リストが再びフロントサイド1080テールグラブに挑む。
メイク!場内割れんばかりの歓声。
ここでマシューは、安全策を取って回転数を落とすか?それとも再度1260に挑むか?しかし彼が選択したのは同じくスイッチバックサイド1260インディグラブ。だがわずかにランディングが合わない。
最後のライダー、トラビスはフロント1080以上を超えるトリックをメイクできれば優勝できるはず。だが彼も1本目と同じくダブルコーク1080を選択。飛び出しから空中姿勢までは完璧…しかし、惜しくもメイクできなかった。

結果、リストの優勝が決定した。
プレッシャーの中で1080をメイクしたリストも素晴らしかった。しかし、安全策ではなく、今できる最高の技で決勝にチャレンジしたマシューとトラビス。オーディエンスを魅了したこのFinalはおそらく語り継がれることとなるだろう。

sj-03▲SJ RANK 3 BIB#2 Mathieu Crepel
sj-01▲SJ RANK 2 BIB#12 Travis Rice
sj-01▲SJ RANK 1 BIB#8 Risto Mattila
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冒頭に書いたとおり、今回の大会で日本人ライダーたちの躍進を指摘した。特にQuarter Pipeに関しては世界との差はもうほとんどないと言ってもいいだろう。だが日本人のレベルアップを遙かにしのぐモンスター達が、世界のトップには君臨しているということも、紛れもない事実である。
日本のサムライ達がこのモンスターを追撃するのはいつの日だろうか。

★この大会はSwatch presents TTRの最高ランク6STAR大会の一つとして認定されている。

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