尾瀬で考える、スノーボードと環境保護

尾瀬で考える、よりよいスノーボーディングと環境保護
こんにちは、写真家のくわのです。

今回は第2回目のコラムを書かせて頂きます。

前回はこれまでの活動を紹介しましたので、今回は身近な出来事を取りあげてみました。

 

現在、私が写真や執筆の創作活動をしている地は群馬県。

写真家を志した23歳の頃に初めて訪れました。このエリアは日本最大人口が暮らす首都圏の奥座敷。県別の魅力的な観光地ランキングで最下位グループですが、住めば都とはよく言ったもの。案外いいところもあるんです。所狭しと木々が生い茂り、キラキラ光る清流があり、沢山の動植物が営みをしてます。車で行ける道の、さらに先にも砂利道や林道や登山道があって、まるで未開拓のワンダーランドみたいです。

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尾瀬と言えば、水芭蕉。有名なこのスポットも水量、天気、残雪、によって開花状況が変わる。

森羅万象。ありのままを受け入れて、自然の芸術を楽しんでいきたい。

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尾瀬の短いグリーンシーズンには、全国から沢山の人がやってくる。楽しみ方はひとそれぞれ。

 

そのなかでも好きなエリアの一つに『尾瀬』があります。

尾瀬の魅力はイロイロあります。ドラマチックな景色を見れたり、花が咲いた、イワツバメの子が巣立った、オコジョがでた、風が強い、虹が見れた。こんなかんじで自然の小さな発見に一喜一憂出来る所です。私はそこでハイキングや登山のガイドをやっています。もともとは「フリーライド撮影をもっと安全に」と自分の中で2次的なものと考えてました。でも今では新緑まぶしく、山菜や野菜が採れたてで手に入る夏がとても好きになってしまいました。それくらい尾瀬や自然は、魅力たっぷりなんだと思います。

そしてこの地にも、滑り応えのあるビックマウンテンが存在します。その名は『至仏山』。

登山口から約3時間半で山頂。魅力はなんと言っても、その展望。ラムサール条約地に名を連ねる尾瀬ケ原を見下ろしながらのライディングは、国内随一の開放感。滑走エリアの半分以上がオープンバーンになっています。20代の頃は毎年スイスやオーストリアにばかり通っていたのですが、あちらのスケール感に勝るとも劣らない、お気に入りの山です。

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人に踏み荒らされた歴史がある至仏山は、GW限定で滑走が可能。入山の際はルールを確認していこう。

 

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至仏山のオープンバーンより、尾瀬ケ原と燧ヶ岳を望む。自分が思っている以上にデカイターンをしてもハミ出る事は無いくらい広い。

 

そして、かれこれ5年くらいになるでしょうか。この山を舞台に、プロではなく一般の方を対象にした『尾瀬BCフォトツアー』なるものを開催しております。一緒に登山して、滑りを撮影していくのが目的のツアーです。

お客様から「家で額装して飾ってるよ」と連絡が来たり、FBやブログで紹介してくれる方もいて写真家冥利に尽きます!

BC初挑戦の方から、時には雑誌編集者さんやメーカーさんの顔も。近年では現役プロや五輪経験者さんまで参加してくれる嬉しいハプニングまで。みんなが感動する場面に立ち会えて、カタチにも残せるこの独自企画にとてもやりがいを感じています。

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夏と冬を合わせると、10回以上参加してくれている常連さんとお友達。スタート前ノリノリです!がんばろー!

 

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体力の無い女性でも、使うギアやレイヤリングを厳選すれば充分楽しめています。それに困った時には頼もしい山岳ガイドボーダーがスタンバイ。

 

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今年のツアーで実現した、プロボーダー&メーカー&五輪スキーヤー&救助隊員&一般ボーダーによる沢トレイン。撮影側としても最高のひとときだった。

 

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尾瀬ケ原に飛び込むようにターンを切る。尾瀬の滑り手と言えばこの人、沼野健補。

 

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日本版エーデルワイスの細葉雛薄雪草。至仏山や谷川岳など非常に限られた場所でしか生育出来ない。

 

 

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尾瀬の至仏山で発見、命名されたオゼソウ。蛇紋岩特産で、一属一種という大変貴重な花。皆がハイクしたり、休んだり、滑るエリアではこのような草花が眠っている。

 

ところで至仏山や尾瀬全体には、山奥なのに人間が深く関わってきた歴史があります。今回はその事に触れていこうと思います。

まず尾瀬というエリアは、太古の昔の隆起や噴火といった地殻変動によって現在の様な2000mに囲まれた箱庭的な地形が出来上がりました。広大な尾瀬ケ原は大量の水を含んだ本州最大の湿原。戦前には「死ぬ前に一度は楽園の様な尾瀬を見たい」と。戦後には名曲「夏の思いで」が流行して観光客が押し寄せ、人々を楽しませたくれたが、その反面に荒廃していきました。だんだん研究が進み、特異な環境に合わせた復元作業や保全ルールが施され現在の美しさを取り戻しています。今は沢山の人の尽力でゴミ一つ落ちていない尾瀬になっています。とても奇跡的な事ですね。

つまり、尾瀬の自然は「人間の心」とともに様変わりをし、よくも悪くもニンゲン自身の姿を表しているのではないでしょうか。

至仏山は「蛇紋岩」と呼ばれる滑りやすく、崩れやすい性質で構成されています。たいてい登山者は岩石帯を避けて歩くようになり、ハイマツなどの樹木を踏みつけたり草地を歩きます。その結果、植物がダメージを受け、至仏山も荒廃が進んでしまいました。

おかしいですよね?そこには自然が好きで来ている人しかいない筈なのに、逆に自然を壊してしまっているのです。

その事は、最近のバックカントリーブームでも見受けられるようになってきました。

最近では、山頂で笹やハイマツの上に腰掛けたり荷物を置く人が増えました。ベチャベチャの雪上よりフワフワして気持ちいいですもんね。今年はなんと壊れたスキーブーツを捨てていった人も。地元の方々が代わりに持ち帰ってくれましたが悲しい現実です。みんな楽をしたい、滑りたい一心。それだけなのでしょうか?

私は、夏のツアー時に花や山の事だけでなく、その歴史やルールも伝えるようにしています。ですから山頂で見かけた時、よほど酷い時には注意を喚起します。でも時には逆切れする人もいるので怖いです。控えめに留まっています。

さて、このまま行くとどうなるか?

きっと至仏山は登山禁止になるでしょう。

現に今もGW後は50日間登山禁止になっています。

また、開山しても尾瀬ケ原への下りルートは禁止です。残雪と蛇紋岩を避けて植生を踏み荒らす人が後を絶たないからです。

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休む時は植生へダメージを考慮しよう。山の神さまは見ています。。

 

国内外、他の場所も同様の案件があるようですね。

立山では、冬の滑走者や登山者の排泄物が問題となっているそうです。冬は一面銀世界で人の気配がなくても、夏には美しい池があったり高原植物が咲いているんです。もっと視野を広げると、川では釣人の切れた釣針や釣糸で苦しむ野鳥がいたり、森ではBBQで捨てたビニールをそのまま食べて死ぬ狸なども問題になっています。

こんなハッとするメッセージを聞いた事があります。

「倒木だって、枯れ草だって、熊の糞だって無駄じゃない。自然界は完璧に近いリサイクルシステムが出来ている。不要なゴミを出すのはニンゲンだけ」

そしてこれ、「この美しい自然を、子供達に残したいと思いませんか。」

多くの場合は、「自分一人なら大丈夫」と考えるんですよね。

私自身もそう思ってしまう時があります。でも変えなきゃいけない。

皆がそう思うと結果的に取り返しのつかない事になるから。

それに、車に乗れば排ガス問題。食器を洗えば川が富栄養化し生態系が崩れる。衣服にもインテリアにも原料は石油が使われている。スノーボード自体も木を伐採し、石油由来の接着剤やソールやワックスを使って、動物の皮を剥いだり石油を使って、着るものを作っています、じつは。

それじゃ何も出来なくなる?

どうしたらいいんでしょうね。。。

明確な答えになるか分かりませんが、いくつかのアイディアを参考としてあげていきます。

たとえば、冬以外の季節にホームゲレンデへ行くとその違いに驚くでしょう。

そこはユリやラベンダーの美しいフラワーパークになっています。ハイキングコースが整備されています。そうそう、このSBNサイトでもスキー場のゴミ拾いイベントが開かれていますね。

そして尾瀬の大自然の場合は800種類の草木が生きています。そのなかには、「ここでしか生きていけない」か弱い草花がいます。我々が産まれる前からずっと昔からこの地に根を張る、おじいちゃん大木もいます。だから今の心地よい滑走バーンをいつまでも滑りたいのであれば、そこの自然を理解し、為になる行動した方がいいはずです。

聞いた話ですが、ニンゲンの基本行動は「関心→認知→行動」となっているそうです。

つまり、初めは少し気になる程度のことでも、興味を持っていくと、実際のアクションに移っていくのです。知らない人には、まずは伝えること。気になる事はしらべること。そこから何かが始まるかもしれませんね。

現在の尾瀬ケ原には有名な水芭蕉をはじめリュウキンカ、ショウジョウバカマ、立山リンドウ、モウセンゴケ、ワタスゲが出そろい早春と言った様相です。夏にかけてニッコウキスゲの黄色い絨毯も私たちを楽しませてくれます。

かの、至仏山は7/1まで入山禁止ですが、尾瀬草、細葉雛薄雪草、高嶺塩竈、白根葵、伊吹麝香草などの珍しいお花が咲き乱れます。デカイターンをした、あの大斜面に。

山容もしっかり見える夏山に行けば、ルートや危険箇所も見えてより複合的にスノーボードが上手くなるでしょう。有酸素運動で体力も付きます。景色やお花も美しく、我々を癒してくれるでしょう。

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7月にはニッコウキスゲのお花畑に。しかし昔のニンゲン活動のせいで鹿が増え、今は激しい食害にあっている現実もある。

 

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尾瀬ケ原の池塘にも尾瀬の名がつく「尾瀬コウホネ」が咲く。数が減って、めったに見る事はできない。

 

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アカハライモリの様な小さな命も姿を見せてる。厳冬期にはマイナス30度にもなる下でずっと春を待つ。

 

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樹木の種類によって違った色付きを見せる広葉樹林帯。1本として同じ木は、この世に存在しない。

 

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東北最高峰「燧ヶ岳」が雪化粧を始めると、尾瀬にも長い冬が来る。

小難しい話を書きましたが、どうせ滑るならよーく調べてトコトン滑ろう。ってこと。

夏も山に行けば気持ちもよいし。お金もかからないし。健康になれるし。

もっともっとスノーボードや自然の事が好きになるよ~!!って言いたいんです。

ボーダーのみんな、夏山に行こう!

今年の夏は緑いっぱいの登山道で、なぜか立ち止まって悶々と冬の滑走ラインを妄想しているハイカーさんにたくさん出会える事を願ってマス。みんなで自然遊びを楽しんで、みんなで自然を守っていきましょう!

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至仏山の春期入山許可最終日。このあと、それぞれのラインで滑り降りボトムで最高のハイタッチで一日を締めくくった。

 

桑野 智和

フリーランス写真家/尾瀬ガイド/カヌーガイド

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