光ヶ原CAT TOUR

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数年前に、光ヶ原CAT TOURに参加したことがある。
その時のコンディションは、やや気温が高く雪は重め、風は強く、風が直接当たる場所では雪面に風紋ができてクラストしていたりと若干エクストリームなコンディションだった。
バックカントリー=パウダーではない。あらゆる状況が自然のままにある、それがバックカントリーだということを思い知らされた。
しかしだからといって楽しくなかったか?と言われたら、答えはNO!ありのままの自然を滑る醍醐味を充分に堪能できた。何よりも広大なエリアの中を雪上車(CAT)で移動し、わずか10数名だけで滑ることができたことは、自分のスノーボードライフの中では極上の経験だった。

cat今回、また光ヶ原CAT TOURに参加することができた。同じコンディションは二度とないのが自然。また新たな経験を重ねることができた。
今回体験したことを少しだけ紹介したいと思う。ここに書いたことは、その日その時だけの条件で成立したことであり、これを読んだ方が同じ体験をできるかどうかはわからない。もっとよいコンディションかもしれないし、もっと悪いコンディションかもしれない。また滑走技術によっては、似たようなコンディションであってももっと楽しめる方もいるだろう。ご理解の上お読みいただきたい。

2月某日。前日の昼過ぎから前線を伴った低気圧が通過。平野に雨を降らせた後に強い冬型の気圧配置となり、天候は夕方から雪。CAT TOUR当日の朝は、やや晴れ間も見えたが、基本的には終日雪模様となった。

toyoda我々を乗せたCATは30〜40分かけて最初のポイントまで移動する。その間にスノーモービルで先発したガイドの一人である星野俊輔プロ(BURTON [AK])がピットチェック(弱層テスト)を行う。前日、湿度の高い雪が積もったらしく、それ以前の乾いた降雪の層との結合が弱く、斜面によっては雪崩の可能性も高いようだ。降雪・天候・気温・視界・参加者の滑走レベル…それらを考慮してどの斜面を滑るかガイド方針が決定する。

CATが最初のポイントに到着。妙高市・上越市方面を見渡せるパノラマビュー。天気が良ければ日本海まで見渡せるという。
チーフガイド豊田貢プロから降雪状況に関する説明があり、今日は比較的安定しているツリーの斜面を中心に滑走するとのこと。そして最初の斜面について地形の説明があった。
firstまずは、足慣らしの一本目。
やや重めだがパウダー。もちろんノートラック。ラインを重ねないように次々にドロップする。そして、後半はガイドのラインをトレースして集合する。
まだ体は思うように動かないが、ノートラックの雪面と板の走り具合を確かめながら一本目を終える。

CATのキャビン内に戻ると、一本滑って気持もほぐれて来たのか、ツアー客同士の会話も弾みはじめる。
「普段はどこ滑ってますか」
「あそこのバックカントリーも入ったんですか?」
「今年はどこもイイ雪ですね」
などと話しながらCATに揺られる。

次第に次の斜面に向かう期待が高まっていく。

slope二本目は、やや斜度のあるツリーへ。
右手がややタイトで左手が少し開けている。最終的にはCATロードに到着するというルート。雪が少し強くなってきたが、視界はまずまず良好。

先行の人たちが左手に入ったので、右手からドロップする。ややタイトなツリーを抜けると、開けたバーンが現れる。斜度にも変化があって面白い。しかし、初めて入る斜面で地形がイメージできていないため思うようにスピードに乗せられない。斜度の緩んだところで失速してバランスを崩してしまった。
悔しい…。乗れてない自分に腹が立つ。

次も同じ斜面へ。
斜面は同じだが、少し面を変えればまたノートラックだ。今度は雪の感触や斜面の様子がわかったので、もう少し思い切った滑りができる。

少しずつだが雪と対話できてきた気がする。
lunchboxランチタイム。
林の中にCATを停め、キャビンの中でランチを取る。

スノーモービルで運ばれたランチは、保温性の高い箱に詰めて運ばれて来ているのでほかほかと温かい。
熱いフレーバーコーヒーと一緒に供されるこのランチボックスは、丸の内のOLさんでも喜びそうなオシャレメニューだ。
上越市のイタリアン「TRATTORIA LA PENTOLACCIA」さんのランチ。
この日は、地鶏をポテトやアスパラとブイヨンで煮込んだお料理にハムとサラダ、そしてずっしりとした生地のチャパタで挟んだローストビーフサンドはボリューム感もたっぷり。質・量ともに申し分ない。

歩いて登っていれば遭難してもおかしくないようなバックカントリーで温かくてオシャレなイタリアンのランチを食べるというギャップ。
これぞオトナの悦び。これも光ヶ原CAT TOURの魅力の一つだろう。

さすがは竹内正則プロデュース。
午後、視界が悪くなってきたため、CATは風を交わす長野県側の斜面へと移動する。
CATから降りると、向かい側の野沢温泉界隈が見える。
まずはあまり斜度のない斜面から様子を見る。雪質は新潟側と違って軽い。スピードが乗ればスプレーも上がる。

そして次にCATが向かったのは、同じ斜面だが斜度のあるバーン。
斜面を上から眺める。
滑り出しは約30度ぐらいの斜度、適度な間隔のツリー、軽いパウダー、雪崩の可能性も低そう。スノーボーダーにとってこれ以上ないというくらいのゴチソウが目の前にある。誰からともなく「イェーイ」という声が出る。

テイク・オフ。
出来るだけターンしないでスピードを乗せる。先行した人のトラックを避けてノートラックのバーンに向かってノーズを向ける。なんとも言えぬ浮遊感。軽く踏み込めばソールから適度な雪の抵抗が伝わってきて板を抱え込む。切り返す。そしてまた無垢の雪面に新たなトラックを刻む。
もっと味わっていたい。だが少しずつ斜面の終わりが近づいてくる。

はかない。なんとはなかい時間だろう。
脳の中では一つ一つの動きがスローモーションのようにゆっくりと流れていた。だが実際は数十秒間。バーチカルで100m強があっという間に終った。
「最っ高!」思わず叫んでいた。

all shootその後、長野側をもう一本、CATで新潟側に戻ってもう一本滑り、最後はCATロードをワンフットでべースまで滑り降りた。

これが、この日の光ヶ原CAT TOUR。

視界は悪かった。雪の重いところもあった。最高のコンディションではなかったが、この日にできるベストのツアーコースだった。
間違いなく楽しかった。満足した。
これだけ楽しめたのは、やはりCATのおかげ。ガイドおおかげ。CATなくして、バックカントリーをこれだけの本数滑ることはできない。そしてガイドなくして、安心して滑り込むことはできない。 おそらくもっと過酷なコンディションであっても、楽しく滑走できたと思う。それは、光ヶ原CAT TOURのスタッフが常に危機管理を行い、綿密な準備をし、熟練した技術を持ってガイドいるからに他ならない。
誰も怪我をすることなく満足して帰ってもらうという当たり前のことがどれだけ難しいことか…。

ハイクなら1日に3時間〜5時間かけて1〜2本滑るエリアを、ノーハイクで快適にそして安全に6〜7本滑る事ができる光ヶ原CAT TOUR。
この“価値”をわかる人にこそ、参加して欲しい。
TEXT:Mr.