初めて彼のインタビューができるとわかった時、聞きたい事はたくさん思いついた。しかし何を一番聞きたいかと思ったとき、スポーツとしてのスノーボードコンペティションの最高峰であるオリンピックに2度出場した後のスノーボードライフスタイルについて聞きたいな、とすぐに頭に浮かんだ。
ソルトレイクでのファーストヒットのアッパーデッキの高さとスタイルは今でも鮮明に覚えている。あの時点で彼はまだ10代。そしてあの時から随分経ったからこそ、オリンピックの事についていくつか聞きたい事があった。そして今の彼が目指す次のステップ、表現方法とは?
オリンピック、そして今後のスノーボーディングでの表現方法について聞くことができた中井孝治インタビューをお送りします。
Q1 2012-2013シーズンはどのようなシーズンだったでしょうか?
先シーズンは動けるだけ動いて燃え尽きたシーズンでした。久々に怪我も無く滑り続けられたシーズンだったので良かったです。シーズンインは黒岳で11月19日ぐらいだったと思います。その前にはサロモンの撮影でヨーロッパに行ってました。そして12月上旬に撮影で十勝にも行ったり、シーズンの滑走日数の八割は撮影だった気がします。そして海外は毎年滑りにいくんですが、先シーズンは北海道でしか滑りませんでした。
SAMURAIのクルーと滑ることも多かったですけど、撮影はビデオカメラマンと二人で行ったことも結構ありました。
シーズン終わりは北海道でも降雪量が多かったので、6月ぐらいまでしつこく滑りましたね(笑
Q2 ソルトレイクとトリノオリンピック2度出場しましたが、改めて振り返ってみて中井くんが一番心に残ったことは何でしょうか?
まず今迄出た大会の中で一番大きい大会だな、と感じました。集まっている観客を含めた人の数もそうだし、規模も大きく、家族も応援しにきてくれたりと、色んな意味で一番大きな大会だったと思います。
Q3 オリンピックのハーフパイプで目の前は誰も滑っていない状態で、ドロップインする前に目の前に観衆やカメラクルーもたくさんいて緊張しましたか?
前の日は緊張したりしましたが本番を滑る時は他の大会と変わらない感じでした。それよりもリラックスというか「やるぞ!」という感じでした。もちろんオリンピックなので日本の人達からのプレッシャーとか責任というようなものもありますが、全くなかったと言えば嘘になりますね。
でもインタビューされた時に「目指すメダルの色は?」とか誘導尋問みたいに言われたりするじゃないですか。正直絶対に言いたくない、と思いました(笑
それは言うことでプレッシャーになる可能性もあるし、自分が目指す所は最初からわかってることなんで言う必要がなかったです。
Q4 もちろんオリンピックに出たという結果は中井くんにしかわからない良い面や悪い面もあったかと思いますが、出場してよかったですか?
もちろん出てよかったと思っています。人生の一部として良い経験をする事ができましたから。
Q5 ソルトレイク、トリノに出場し、結果は抜きとして中井くんが良かったと思うオリンピックはどちらですか?
やっぱりソルトレイクの方が自分的にも滑り切った感があります。トリノは最終調整は上手くいかず調子が悪かったですし。ソルトレイクのファーストヒットのアッパーデッキであそこ迄高く飛べたのは、あの時かコアXゲームの時かぐらいしかなかったですね。
Q6 今現在サロモンのインターナショナルライダーとして活動していますが、今の中井君が目指すスノーボーディングの表現はありますか?
滑りの質を上げていきたいといつも思っています。できない技を出来るようにしたいという事もありますが、今できる技の質を上げていきたいですね。今10割の力でできる事を6割でできるように、よりコントロールしながら滑るという感じです。
あとは表現の「場」です。昔は写真を残して、自分の滑りを見て欲しいという所がありました。凄い!と思って欲しいというように。でも今は違って、自分が滑っている所をみなさんに見てもらって共感してもらい、「スノーボードがしたい」と思ってもらえるような表現の「場」を作りたいといつも考えています。なので、まず表現できるサイトを年内ぐらいに立ち上げたいと思っている所です。
Q7 今使用しているギアを教えて頂けますか?
SNOWBOARDはASSASSINというモデルを使用しています。わかりやすく言うとパウダーボードなんですけどツインチップシェイプです。パウダーの滑りやすさはもちろんの事、バターしたりマッシュに当て込んだりとフリースタイルの動きもしやすいようになっています。ノーズとテールも同じ太さでフレックスも同じで浮力もあり、踏み込むとロッカーのようになる構造ですので、僕のようにキャンバーの乗り心地が好きな人には最適な一本だと思います。
BINDINGはDISTRICTを使用しています。これは一押しですね。ヒールカップが一体化している堅さではなく、ワイヤー状で繋がっているので、アンクルストラップとヒールカップのワイヤーが360度で繋がって足首を締めているフィーリングなんです。だから足首の痛さも無いし、柔らかいから動きもスムーズで、でもハイバックがベースプレートから留っているのでハイスピードやパワーの入れ込みにも対応してくれます。これはもの凄く調子いいです。
BOOTSはSYNAPSEと新しくリリースされたワイヤー1本で締める事ができるF4.0をコンディションによって使い分けています。サロモンのブーツは本当にフィット感が素晴しく、疲労感が少なくてシーズン中はとても助かってます。
Q8 REVOLTブランドとしての活動、考えを聞かせて下さい
ライダーとして「こういうことは違うな」とか「こういうことはしたくないな」ということをしなくてもいい為に、自分たちでコントロールさせてもらっています。スノーボードが上手いのはもちろんですが仲が良くて一緒に滑ったことのある仲間と「良いものを作っていこう」というスタンスでやっています。
ゴーグルのデザインやそのフレームにマッチングするレンズの種類の選択まで様々な事をライダー達で行っています。ライダーでデザインしたいライダーは全員デザインもできるようにしています。その方が思い入れもあるだろうし、人に自信を持って勧める事もできると思います。
Q9 最後にスノーボーダーの皆さんに伝えたい事はありますか?
これは僕だけかもしれませんが、スノーボードをやる人=若者というイメージがまだ強いのではないかという気がしています。バックカントリーを滑るようになって危険な所を滑らなくてもノートラックパウダーを滑るだけでも楽しいじゃないですか。スノーボードには無限の楽しさがあるから、様々な人にカテゴリーを問わない楽しさを皆さんと一緒に味わえていけたら嬉しいです。
また皆さんがそのような気持ちになれるように自分もスノーボーディングの一部を発信していきたいと思います。
オリンピックを2度経験し、そこへ辿り着いたからこそ次のステップが明確に見えている中井孝治。競技としてのスノーボーディング、そしてカテゴリーを問わない無限の楽しさを味わうことができるスノーボーディング。彼にとって、それはどちらも何も違いが無いスノーボーディングそのものであり、彼だからこそ新しい表現を日本、そして世界に発信できる事があると感じたインタビューであった。
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