スノーボードフォト アートへの挑戦<後編>

今年1月下旬。彼自身、あらたな挑戦として写真集の中からアーティステックな写真34枚を厳選し、スノーボードを全く知らない一般の人へ向けた写真展を都内・恵比寿ALで開催した。前編のインタビューでは、写真展への思いとともに撮影のバックグランドなど、彼が考えるスノーボードフォトの今後の可能性について語ってもらった。そして、後編では写真や写真集をより面白く見るための見方や、彼自身が写真家としての今の活動をどう捉え、今後のアクションについてのどう考えているのかというポイントにフォーカスしている。

A-1_innerfocus22フリーラン(以下、F):ツトムさんは写真を撮るにあたって自分なりに大切にしていることはありますか?

遠藤 励(以下、E):写真が滑り手の世界観にあっているかどうかってことかな。写真に滑り手の個性が現れるのが一番の理想で、その人(被写体)のバックグラウンドにあるフィールドややっていることがリンクしていたら良いなと思う。そうじゃないと俺が違和感を持ってしまう。例えば、今バックカントリーが流行っていて、この前まで「ジブ最高でしょ」なんて言って、レイルにガンガン入っていた人が、いきなりガイドとか付けてバックカントリーにツインチップの板で入ってきたとする。そりゃピークから滑べればいい写真は残るけど、でもそこに俺は違和感を感じちゃうんだよね。やっぱり、その人がやってきたスノーボードのストーリーとリンクしたフィールドでの撮影がいいなって思うんだ。

この作品は2013年に白馬・八方で撮影された三宅恭太のライディング写真。ライダー自身が持つ個性を最大限に写し出された1枚。作品タイトル「Skanda」
この作品は2013年に白馬・八方で撮影された三宅恭太のライディング写真。ライダー自身が持つ個性を最大限に写し出された1枚。作品タイトル「Skanda」

F:撮影をするときに意識していることは?

E:今はテーマをもって撮影しているかな。テーマであり、作風(キャプションなしで写真をみたときに誰の写真かがわかること)。そういう作風=スタイルが残るようなことをやりたいなって思っている。俺はある時、曲線のバランスや雪の質感の世界に気づいて、雪の曲線の美しさだったり、やわらかさを表現するってことにハマったんだよね。曲線美でこの世界を追求できるんじゃないかって。これを追求すれば自分のスタイルになるのかなって。

赤ちゃんのいる妊婦さんのお腹をイメージして「Mother」と名付けられた作品
赤ちゃんのいる妊婦さんのお腹をイメージして「Mother」と名付けられた作品
遠藤 励氏のテーマであり、作風である曲線の美しさが表現された数々の作品が彼の後ろに並ぶ
遠藤 励氏のテーマであり、作風である曲線の美しさが表現された数々の作品が彼の後ろに並ぶ

F:写真集や写真展。こういう風に写真をみてもらえると良いとかって見方ってありますか?

E:まず写真集について言えば、写真集(本)ってものの宿命が「開くこと」でしょ。右と左で見開きになるわけじゃん。アートブックはそこの組み方が命。その組みで何を表現するかってのがポイント。あとは流れも大事。流れがあるかないかが、ただの作品の羅列とアートブックの違いかな。だから、なんでこれとこの写真の組みなんだろう?っていうのを考えながら見てもらえるとより面白いと思う。それと、クレジットやキャプションを見ないこと。

F:見ない方が良いんですか?

E:そう、画で見る。

写真集っていうのは画を読むものだから。本当はキャプションやクレジットを全てとりたかった。でも今回の写真集はライダーへの敬意をはらいつつ価値ある18年間の時代を表現しているから、スノーボードフォトグラファーとしては外しちゃいけないと思ったから入れたんだけど、本当はない方が面白い。

F:色々と想像するところから楽しむってことですか?

E:そう。画に描いてあるから、画を読むんだよね。そういう意識で見るとむちゃくちゃ面白い。なんでこれとこれの組みなんだろう。次にめくったページにこれがきてるっていうのはどういう意味なんだろうって。

F:今回の写真展はどうですか?

E:ここはストーリーっていうよりか空間とのマッチングだから、入って来た時の流れを意識している。色のバランスとか、全体の色味の配合かな。各テーマにそって写真のぬくもりやライディングアート、雪の景色、自然の現像、生臭い生き方とか、ざっくりした流れは考えているけど、一番は空間の色味を意識しているかな。空間と写真のマッチングを重要視している。

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1月に開催された「Art of snow players」の会場。今回はここでの空間とのマッチングや色のバランスを意識し34枚の作品がテーマごとに並べられた
1月に開催された「Art of snow players」の会場。今回はここでの空間とのマッチングや色のバランスを意識し34枚の作品がテーマごとに並べられた

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遠藤 励氏の写真にはどこか暖かい温もりと優しさを感じることができる。雪山の日常の姿も彼が撮影することでアートとして表現されていく
遠藤 励氏の写真にはどこか暖かい温もりと優しさを感じることができる。雪山の日常の姿も彼が撮影することでアートとして表現されていく

F:写真家としてアーティスととして、自分の写真をスノーボードを知らない人や、家に飾ってもらいたいって話しもありましたけど。その人達にどういう感情や、どうなってもらいたいって思いますか?

E:何より画を飾るっていう文化って心が豊かじゃないとできないから。そういう心の余裕みたいなものが広がっていってほしいと思う。その先にどう感じるかは個人の自由だし、その行為自体がすごい豊かな話しになるんだと思う。もっとフリーダムでいいんだよね。家に飾ってもらったり、写真展に足を運んでもらえるような豊かな人達が増えていってほしいし、その先には世の中が平和になってほしい。目指すところはLOVE&PEACE。そのために、俺は写真家だから写真を通してそういうふうになればいいなって思ってるし、料理人は美味しい料理を提供して、世の中笑顔になればいいってたぶん思ってるだろうし。それぞれの人達がいい仕事をしてもらいたいよね。

F:今後の目標はありますか?

E:このまま作家としてやっていけたらいいかな。貫き通しますよ。素晴らしい作品をつくることはもちろんだけど、こういう活動を重ねて自分のファンを少しずつ増やしていくこと。それがやっぱり作家への道のネクストステップでもあるから。自分が「これが芸術だ、素晴らしいんだ」ってやってても生活はできないし、やっぱ認められていかなければいけないし。それは個展をやって一夜にして世界が変わることでは決してなくて。写真展を回数重ねてやってきて気づいたんだけど、こうやって地道な活動を続けてスライドトークショーとか色んなところで、いろんな人達に見ていただいて、自分のキャラクターを知っていただいて、少しずつ自分のハードルを広げていくことが、もうひとつの自分の一生のテーマなんだって気づいた。小学館から写真集をだしたけど何もかわらないし、東京で写真展やりました。別に何もかわらない。本当に大事なのはそこにいる普通の人達にどれだけ響くかっていうことをやり続けていくかってことだから。これからも応援よろしくお願いします。

H_innerfocus10遠藤 励(えんどう つとむ)

1978年生まれ 長野県大町市出身、在住。
スノーボードカルチャーに精通し雪山での撮影に特化、1998年よりエクストリームフォトを中心に広告やカタログ、雑誌への作品提供や執筆を手がける。また、ネイチャーやスナップにも注力、この星の感動を求めて旅を重ねる。写真展、スライドトークショーなどを国内外にて開催。

オフィシャルHP : http://www.tsutomuendo.com

Sponsor : MSR, ONE BALL JAY, F-STOP, CAPiTA SNOWBOARD, SPACE CRAFT, FLUX

写真展「Art of snow players」協力: RIDE SNOWBOARDS, CANON, BLUE MOON

Photo: Kentaro Fuchimoto

 

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