昨年11月、大手出版社小学館より自身18年間の活動をまとめた写真集「inner focus」を発刊した写真家・遠藤 励氏。この写真集では18年間の集大成として彼が撮りだめたボードカルチャーと雪山の感動の作品を垣間みることができる。そして今年1月下旬。彼自身、あらたな挑戦として写真集の中からアーティステックな写真34枚を厳選し、スノーボードを全く知らない人へ向けた写真展「Art of snow players」を都内・恵比寿ALで開催した。この活動はスノーボードフォトのアートへの挑戦だった。今回のインタビューでは、写真展への思いとともに彼が考えるスノーボードフォトの今後の可能性や撮影のバックグランドについて語ってもらった。
フリーラン(以下、F):今回の写真展の目的は?
遠藤 励(以下、E):ずばり言っちゃうとスノーボードフォトがスポーツフォトの領域を越えて芸術としても進化していくことを目指したい。そして1枚の作品として世に認知され家に飾られる。ショップで値段が貼られるような事が普通になればいいなと思っている。それは俺のためだけじゃなく、スノーボード全体の次のステージだと思っていて、こういうアクションを写真家がおこして、この土俵を耕していくことで新しい文化が根付いていくと願っている。
スノーボーダーの中にはアスリートなライダーもいるし、それはそれで凄いことだと思うしリスペクトしている。そのスタンスとは別に “自分は写真や映像を残して雑誌やビデオに出たい” っていう活動に憧れる、最近でいえば白馬で活動するHACHIクルーのようなコンペシーンとは離れたところで活動するようなライダー達の前線もあるでしょ。彼らなんかと、世の中で認知されているスノーボーダーの温度差がちょっと離れすぎてると感じるんだ。もう少しクリエイティブ思考なライダーが一般の人達に認知されてもいいのになって思う。この写真展を通して写真家だけじゃなく、作品を残す活動を続けているライダーももっと世に出ていく可能性を生み出せたらいいなと思っている。
F:ツトムさんが思うスポーツフォトとスノーボードフォトの違いは何ですか?
E:その写真が “記録写真” なのか、それとも “何かを伝えたいという思いが込められている写真” かどうかの違いかな。夢を与えるっていうスノーボーダー本来の思いをね。
F:昨年出版された「inner focus」では何枚写真を選び完成させたんですか? また今回の写真展でセレクトした34点の写真はツトムさんの中でどういう視点で選んだんでしょうか?
E:inner focusはトータルで180~190枚の間くらいかな。写真集では時代を追ったクロニクルっていうスノーボーダーにしかわからないマニアックな側面もあるんだけど、その部分は今回の写真展では一切取り払っているんだよね。この写真展では、スノーボードや雪の世界を知らない人達に僕らのやっていることを見ていただくっていうコンセプトがあるから、そういう視点で選んでいる。今回それぞれの写真タイトルも変えてて、普通スノーボードフォトなら例えばこの写真なら「Lucas Debari @Mt. Baker」って感じでライダー名と撮影スポットがタイトルになるんだけど、今回付けたタイトルは「SNOWMAN」なんだ。普通の人からしたら、あれがルーカス・デバリだろうが、誰であろうが知ったこっちゃないんだよね。アートの世界は「この作品は一体何を言いたいの?」っていう世界だから、いくら有名なテリエであろうが、ショーン・ホワイトだろうが、そういうのはうちら業界の世界の話しで、一般のおじいちゃんやおばあちゃん、外国の人、雪の降らない地方に住んでる、例えばサウジアラビアの人が見た時に「SNOWMAN」ってタイトルだったらわかるんだよね。そういう視点で全部選んだ。一言で言うとほんとうにアートへの挑戦。老若男女、国籍問わず、作品として伝えるためのクオリティーを持ったチョイスなんだ。
これはinner focus発刊を記念して制作されたインタビュー映像「Documentary of Tsutomu Endo’s Photo book “inner focus”」のダイジェスト版。ライダー、メディア、メーカーと様々な人がinner focusや遠藤 励氏について語っている。それぞれのロングインタビューはFB: 「INNER FOCUS PHOTO BOOK」で検索してチェックできる
F:スノーボード写真にアート性を感じる部分はどんなところですか?
E:はっきり言っちゃうと、アクションが写ってる時点で、アートは別の次元のところに飛ばされちゃうかな。うちらスノーボーダーが見るからそうなのかも知れないだけで、実は俺がスノーボードにアート性を感じる写真はプレイヤーがいない写真なのかもしれないね。スノーボーダーの生き様が現れていたりとか、想像させる世界観だったり。でもね、自分らがシンプルにやってきたライディング写真って偶然というか必然で、そこに狙っていくプロセスがアートなんだと思う。俺とライダーが出会い、一緒に写真を残そうって気持ちが高まるっていう時点でお互いのチャンネルがあってないとそうならないわけで、そこでシンクロすることが凄いアート的だし、いろんな思いや自然の中で残る様々な点がひとつの作品になっていく。その作品自体がアートかっていうとちょっとまた別次元のスノーボードフォトだと思うんだけど、そのプロセスがアーティスティックだと思うんだよね。今はそういう仲間とやらせてもらってるかな。同じチャンネルを持ってる仲間がいるっていうのかな。
F:今も自分自身がプレイヤーとして滑り続け、プレイヤー目線で撮影しているツトムさんですが、撮影の拘りは何かありますか?
E:撮影って日はカメラバック背負ってライダー達に同行して、その時即興でアイデアが生まれたときに撮影しているかな。場を仕切って、じゃ始めますって撮り方はあまりできないんだよね。ライダーを待たせないようにすーっと自然に撮影できたら良いなって。そうじゃなきゃ、空気の流れが止まっちゃうし写真に温度がなくなっちゃう気がするんだよね。だからその温度をキープするためにライダーを止めたくない。やっぱり写真はその場の温度が大事なんだよね。
F:ツトムさんの写真って自然なライフスタイルというか日常をうまく切り取っている感じがしますよね。
E:あのルーカスの写真もバーンっていうその温度感を伝えたかった。あの写真って、ここに立ってこれやってよって言っても難しいし、そもそもそれじゃあギミックだから。本当の嬉しい瞬間をやっぱりその温度で伝えたいんだよね。だから常にカメラを持ち歩かないと撮れないんだ。あの時は富士フィルムのX-T1っていう一眼じゃない小さいデジタルカメラをぶら下げてて、とにかく撮りまくった。でも四六時中持っているのはかなり気合がいるんっすよ。例えばこの期間テンプル・カミンズを撮りたいから、この1ヶ月はカメラを絶対に離さないって決めて撮らないと結構大変。ほんとに1,000枚撮って1枚残るか残らないかって世界になってくるからね。
1978年生まれ 長野県大町市出身、在住。 スノーボードカルチャーに精通し雪山での撮影に特化、1998年よりエクストリームフォトを中心に広告やカタログ、雑誌への作品提供や執筆を手がける。また、ネイチャーやスナップにも注力、この星の感動を求めて旅を重ねる。写真展、スライドトークショーなどを国内外にて開催。
オフィシャルHP : http://www.tsutomuendo.com
Sponsor : MSR, ONE BALL JAY, F-STOP, CAPiTA SNOWBOARD, SPACE CRAFT, FLUX
写真展「Art of snow players」協力: RIDE SNOWBOARDS, CANON, BLUE MOON
Photo: Kentaro Fuchimoto