スノーボードのパイオニア、ジェイク・バートン氏インタビュー 「スノーボーディングは私の情熱」<後編>

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1960年代に遊びとして誕生したスノーボードは、今や一大エンターテイメント産業に成長。オリンピック種目にもなり、誰もが注目するスポーツとなった。その発展劇をリーディングカンパニーであるBURTONスノーボードのジェイク・バートン氏はどう見ているのか。昨年には死をも覚悟した大病をわずらい、みごと打ち勝ち、スノーフィールドへ舞い戻ったジェイク氏に、いま見つめる未来を語ってもらった。

フリーラン(以下、F):ビジネスとスノーボーダーが大切にする精神性とのバランスをどう考えていますか?

ジェイク・バートン(以下、J):スノーボーディングは私の魂ですよ。ドナと私にとって、スノーボーディングは初めての子供みたいなものです。スノーボーディングを守り、愛し、一生を捧げることを私たちは誓っています。そして同時に、ベストではないですが、自分を“グッドビジネスマン”だと思っています。“十分なビジネスマン”といったほうがいいでしょうか。いいアイデアといいスノーボーダーのいるブランドは多くありますが、往々にしてビジネスを上手く展開できていない。その反面、ビジネスセンスは高レベルなものの、プロダクトやイメージが悪いブランドもあります。BURTONは強いビジネスと最高のプロダクト、そしてベストなチームを兼ね備えた、非常にレアなブランドだと思っています。

F:自身をいいビジネスマンだと思っているのですね?

J:そう思いますね。とくに80年代は日本で多くを学びました。プロダクトクオリティについても同様です。最高のプロダクトを生み出さなければブランドは成長しないと感じましたし、何より日本のマーケットはシビアですから、少しの傷でも製品として認めてもらえない。あらゆる側面でパーフェクトでなければいけないんです。とてもいい経験になりましたね。

F:スノーボーディングは冬のスポーツです。ブランドとして、夏という季節をどう捉えていますか?

J:私たちは南半球でもビジネスをしますから、常に冬はあるんです。とはいえビジネス規模はまだまだ小さいのが現実です。個人として夏を捉えると、私はいつも旅をしてきましたし、夏にはチリやアルゼンチンへ足を運んできました。最低2週間、雪を求めて南半球に滞在するんです。スタッフのなかには、雪山から離れてスケートやサーフィンに没頭する人もいます。BURTON本社にはスケート用のボウルがあり、海へは3時間のドライブで着くことができる。私は6時間かけてニューヨークのロングアイランドまで足を伸ばしますが、そこは私の生まれ故郷でもあるので大好きな場所ですね。人も少なく、サーフィンには最適ですよ。

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アウトドア、キャンプ、BURTON社はスノーボーディング・ライフスタイルから生まれるストーリーに基づいてアイテムが展開されている

F:BURTONはキャンプ用のテントも展開していますね。

J:冬以外のシーズンでも、異なるカテゴリーで成長を続けたいと考えています。しかしながら私たちがつくり出すストーリーは“スノーボーディング・ライフスタイル”から生まれ、キャンピングやアウトドアクロージングに繋がっていくものと捉えています。多くのスノーボーダーはアウトドアをベースに生活していますからね。ダニー・デイビスやジャック・ミトラーニなどは常にキャンプ生活をしていますし、キャンピングギアをリリースするのは自然の成り行きだと思っていました。しかもモノづくりには自信を持っていますから、アウトドアでの使用を念頭におくバッグひとつにとっても、スノーボードと同じように高品質で高い耐久性の製品をつくることができます。

F:ブルーサイン(*環境汚染を引き起こさない生産体制と部材を使う製品のみがマーケットに供給されるべきであるとする、世界で最も厳格と言われている環境保護および労働者と消費者の安全に関する基準)の認証やFSC(*Forest Steward Council、生産過程における森林や製品、流通過程の評価、認定、監督をおこなう国際的な森林管理協議会による認証)を取り入れましたが、これもアウトドアを意識した動きでしょうか?

J:雪山という自然をフィールドにするわけですから、「製品をどうのようにつくるのか」について意識を払うのは大切なことです。環境に対してより深く考えることは必須な時代となり、また私たちのようなスタンスが業界をリードしていければとも思っています。振り返れば、5年前にサスティナビリティ専門の部署などありませんでした。それが今となっては5人のスタッフが環境に対する部門で働いています。子供たちにスノーボード体験を提供するCHILLプログラムの部署でも15人が勤務していますが、このような体制をもつスノーボードブランドは私たちだけでしょうね。

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アメリカ・バーモント州バーリントンにあるBURTON本社

F:サスティナビリティのプログラムを採用した点について、もう少々詳しく教えてください。

J:私たちの意識の問題ですよ。そして少し身勝手に聞こえるかもしれませんが、この世界から雪がなくなってしまったら、私たちはどうすることもできませんよね?グローバルウォーミング(地球温暖化)よりグローバルクーリング(地球冷却化)が、未来を考えると必要なことです。

F:今年、アメリカの雪はどうですか?

J:東海岸と中部は少し雪が少ないですね。去年は本当にいいシーズンだったんですが、ただカリフォルニアでは水不足が深刻化していました。製品を作る水はもとりより、飲み水や公園の水、ゴルフコースに使う水までもが足りない状態でしたね。でも今年の西海岸はいいシーズンを迎えています。ウィスラーやユタもいいですね。

F:近年、日本の雪が良いということに気づき始めた人が増えてきましたよね。改めて日本のマーケットの可能性についてはどう思いますか?

J:以前は日本の雪が良質であることを誰も知りませんでしたが、たしかに今は多くが北海道の雪を知ってますね。マーケットのポテンシャルも素晴らしいと思います。でももっとマーケットの特性を知る必要がありますね。ウインターリゾートを含めて、業界はもう少し活発にマーケティングをする必要があるのではないでしょうか。

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F:BURTONとして日本のマーケットに対するプランはありますか?

J:現状は特にありませんね。私たち本社のスタッフは世界的に見たマーケットアプローチを考えていますからね。けれどクレイグ(アジアパシフィック地域 シニアバイスプレジデント)は日本のマーケットに対して多くのことを成し遂げてきたと考えています。現在、世界の経済事情はとてもタフな状況にあります。誰もが上を目指さないといけない状況ですから。

F:しかし欧米ではエナジードリンク業界をはじめ、大資本の企業による参入が相次いでいますね。エンターテイメントとしてスノーボードは活況を呈しているように見えます。

J:これは何を目標に置いているのかによりますが、もし彼らがスノーボードの世界で成功したいのであれば、スノーボーディング、そしてスノーボーダーを理解する必要があります。たとえばレッドブルは古くからヨーロッパのスノーボーダーをサポートしてきました。それでも、もし彼らがスノーボーダーを理解する努力を怠るならば、おそらく長くは続かないと思いますね。ナイキを見てご覧なさい。彼らはスノーボード業界への参入を2回試みました。しかし本気にならなかった結果、2回とも撤退することになった。ライダーの待遇は良かったし、チーム自体も最高だった。それでも結局はスノーボードの世界における成功を諦めましたよね。

F:BURTONは違うと?

J:スノーボーディングは私の情熱ですよ。スノーボーディングは私に、私の人生に多くの恵みを与えてくれた。だから、恩返しをしないといけませんよね。

スノーボードのパイオニア、ジェイク・バートン氏インタビュー 「スノーボーディングは私の情熱」<前編>

JAKE BURTON CARPENTER
born April 29, 1954 in New York City

K_JakeBurton_Adamants_sInterview: Takashi Osanai, Transration: Kenji Kato, Photo: Kentaro Fuchimoto
素材提供:BURTON