TRIFORCE×SBN合同企画として昨年初めて開催した「神楽峰BCブートキャンプ」。今回が2回目となる。
前回は初級編ということで、バックカントリーが初めてという方や、数回経験したという方々にご参加いただいいた。SBNとしてははじめての試みではあったが、参加者の方々からも好評いただいた。さらにそのキャンプを機に本格的にバックカントリーに目覚めたという方も数名。これは本当に嬉しいことだ。ハイクしたこと、滑ったこと、そして学んだこと…受け取り方は人それぞれではあるが、その方々のスノーボードライフにおいてまた新たな領域をお見せすることができたのだと思う。
今シーズン「是非、厳冬期の神楽を体験したい」という声にお応えして「中級編」と銘打ったキャンプを開催することとなった。
同行した私自身は、バックカントリー中級編にはまだまだというレベルではあるが、経験せずして伝えられないという想いでパーティの一員となった。
今回のキャンプは、2月7日-8日の一泊二日。シーズンでもっとも降雪が期待できる時期である。しかも今回、ゲレンデ内にある『和田小屋』での宿泊。通常の一泊二日のスノーボードキャンプとは何か違う期待感を持たせてくれる。
みつまたステーションのロープウェイ乗り場に集合した参加者一行は、さすがに中級者らしく全員自前の装備。板も「粉雪」や「GENTEM」、Burtonの「Malolo」「Cascade」といったバックカントリーにふさわしいフリーライディングボードを携えている。
我々以外にもスノーシューやポールがくくりつけられたザックを背負い、「Vector Glide」や「VOLTAGE」などのボードを手にロープウェイへ向かう人達がいる。やはりここはバックカントリーのメジャースポットなのだ。福島からの参加者の方は「こんなにたくさんの人がバックカントリーに入るんですか?」と複雑な表情だ。とは言え、我々もその内の一群であることも事実。
ガイドをしてくれるTRIFORCEの方々と挨拶をして、キャンプスタート。
これから向かう山に想いを馳せて、みつまたステーションからロープウェイに乗り込んだ。
金曜日のうちに雪が降ったのと、気温が氷点下で続いたらしく、かぐらはゲレンデベースから踏む度にキュウキュウと鳴く片栗粉パウダー。しかも雲一つないド無風ド快晴。
天候にめぐまれたこともあり、かなりの人数が入山している。これでノートラックを滑れるのかと心配になる。
ガイドを含めて6人の1パーティでほとんど淀みなくハイクを続ける。中尾根のピークに到着すると、眼下には魚沼の大パノラマ。雲一つない快晴で遥か遠方の山々まで見渡せる。
まずは短めの1本を滑る。南斜面ながら気温が低く軽めの雪質。先に滑り降りてビデオを構え後続を待っていると、白と青の境界線から、スプレーを上げながら仲間たちが飛び出してくる。不覚にも“美しい”と心の中でつぶやいた。
ピークまで登り返してランチ休憩を取る。
見晴るかす遙か山々。コンビニのおにぎりとSOY JOYがやたらと美味く感じる。山に登り馴れた面々は、ガスストーブ(シングルバーナー)やコッヘルを持参している。仲間の一人は、東京の人なのに『マルタイ棒ラーメン』を作って食べていた。「九州人のソウルフードだよ」と教えてあげると感心していた。
ランチを終えて下りルートへ。中尾根の北斜面を選ぶ。ガイドのルート案内でもちろんノートラックバーンだ。
一人ずつ滑り降りる。静寂の山中に、仲間たちの歓喜の声がこだまする。そうとう気持ちいいらしい。
続いて自分の番。大きなターンでゆっくりとクルーズしはじめる。雪質は北斜面らしく軽いドライパウダー。ふかふかのノートラックに飛び込むとなんとも言えぬ浮遊感。無意識にファルセットボイスの奇声を発している。
斜面の後半に沢状の地形が現れる。バックサイドからフロントサイドに緩く当て込みスノーサーフィン。仲間たちのもとにたどり着くとハイタッチで迎えてくれた。
和田小屋にチェックインして、さっそくビール!
帰りの運転を気にしなくていいのが嬉しい。
ひとっ風呂浴びてまたビール。
食事の前だが、仲間達とのプチ宴会。山のこと、板のこと、装備のこと…、そんなバックカントリー談義もまた楽しい。
6時半に夕食。
山小屋の食事とたかをくくっていたが、これがけっこう美味い。小鉢からメイン、お新香やデザートまですべてキレイに平らげてしまった。
食後、まだ7時過ぎだというのに、疲労感と満足感と満腹感がアルコホールで溶けあって幸せな気分で眠りに落ちた。
翌朝、窓の外を通り過ぎる風の音で目が覚めた。昨日のピーカンが夢だったかと錯覚するくらいの荒天。 雪は、降り積もるというより、急き立てられるように風に追われ、留まることなくあちらこちらに運ばれていると言った様子だ。暖炉の火が落ちた山小屋は、ゆっくりと温もりを失いつつあった。
朝食を済ませた頃には、和田小屋前の第1ロマンスが運転開始。和田小屋宿泊者だけが味わえるファーストトラックを数本堪能する。第1高速クワッドが強風のため運転停止となり、登山口までは第1のリフト終点からコース内をハイクしていくことになった。 吹きっさらしのゲレンデ内を約20分ほどハイクし、登山口からバックカントリーエリアへ向かう。
「ゲレンデのハイクはやっぱり風情がない」
とパーティの一人がつぶやく。確かにそうかもしれない。
荒天の影響で入山者は少ない。昨日のトラックは完全にリセットされている。つまり先頭を行くガイドが全行程ラッセルして道を作る。地形によって風の通り道となっているところもあるらしく、激しい横風に歩みが止まる。昨日よりもかなりスローペースだが、ゆっくりと、しっかりと、雪面を踏みしめながら歩を進める。登ること約2時間。昨日と同じ中尾根ピークに到着。
風はいまだ強めだが、堪えきれないほどではない。今年のマイ・ウェアは調子が良いらしく、それほど寒さを感じないが、ザックから取り出したミネラルウォーターは、みるみるうちに凍りはじめた。体感よりも寒いらしい。
休憩しながら眺める景色は、昨日とはまったく違う表情を見せていた。昨日は遥か日本海まで見渡せたるほど澄み渡り、優しい顔を見せてくれた。今日は、荒々しく殺伐として、油断すればすぐに呑み込まれてしまいそうな厳しい顔。
しかしどちらの表情も美しい。
以前は、厳冬期に登山をする人の気が知れなかった。
だが今なら、少し理解できる気がする。
中尾根を少しハイクダウンしてボードを履く。
風を交わす南向きの大斜面を一人ずつ滑り降りる。
風に飛ばされ吹きだまった粒子の細かい雪。
ノートラックのオープンバーン。
斜面を大きく使ってターンする。
想像以上にスピードが乗り、身体が遅れそうになる。
少しだけ前足を踏み込んでテールを送り出す。
視界の端に大きなスプレーが見えた気がした。
一行が一通り滑り降りたところで
「みなさん、風が変わったのがわかりますか?」
とガイドの永井氏が話しかける。
「さっきまでつむじを巻いていた風が、今は同じ方向に吹いてますよね」
なるほど、たしかにそうだ。
「これは低気圧と高気圧が完全に入れ替わったってことです。さっきまではその境界線だったんです。上昇気流が発生する低気圧と下降気流の高気圧、その狭間で気流が入り交じるとつむじ風が起きるんです」
風の状態で上空の気圧の変化を読むことができる。これもバックカントリーに入るための知識の一つだ。この知識をどう役立てるかはこれから先の領域かもしれない。
今の話を学校の机の上で聞いたとしてもおそらく記憶に残らないかもしいれない。
しかしおそらくこの先、今聞いたこの話を絶対に忘ることはないだろう。
二日間のバックカントリーキャンプを終えて感じたことをお伝えして締めたい。
バックカントリーは、やはり一筋縄ではいかない。ここに書ききれない様々な経験をした。ここに書ききれない色々な事を感じた。
おそらく自分は、現段階ではガイドなしでバックカントリーに入ることはないだろう。それは自分の技量と経験の低さを身につまされて感じたから。
昨今、バックカントリーに対する敷居が低くなってきたようにも思う。しかし、それはサポートできる人ありきのことだ。サポートなしでバックカントリーに入るには装備も知識も経験も、そして覚悟も必要だ。「自己責任」という言葉はそれらが揃ってはじめて使ってよい言葉なのだと思う。
装備、知識、経験、覚悟、いずれも中途半端なままの行為を、間違っても「自己責任」の一言で片付けてほしくはない。
今回のようなガイド付きキャンプは、それらを身につけるための一歩。遙か遠くの頂きも、一歩一歩踏み進めることで必ず近づくことができるのだから。
text:Mr.
photo&movie:Mr.&Jose
◆TRIFORCE◆
新潟県南魚沼市をベースとするマウンテンガイドサービス。
バックカントリー初心者からマニアックなラインを求める上級者まで、経験豊富なガイドが皆様を楽しく安全に、とっておきの『山』へ。