【SBN EXPERIENCE REPORT】神楽峰BCブートキャンプ

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山岳ガイドTRIFORCEとSBNの合同企画で“神楽峰BCブートキャンプ”と題したバックカントリーキャンプを開催した。
ブートキャンプと言えば「ビクトリー!」な某エクササイズDVDを思い起こされるご貴兄も多いだろうが、元々は“新兵訓練”を意味する。訓練というほどハードなもメニューがあるわけじゃないが、バックカントリー初心者のための入門編ということでそういう名前にしてみた。べつにTRIFORCEの永井氏の風貌が軍曹っぽいからという訳では…ない。kagura_syugo

バックカントリーにはゲレンデ滑走では得られない魅力がある。私たちとしても魅力は伝えたいが、そこに伴うリスクについても正しく認識してほしいと考えた。単なるガイド付きツアーではなく、雪のこと、地形のこと、ライディングのこと諸々含めて、初歩から学べるキャンプ。それが今回のブートキャンプだ。

今回のキャンプを計画するに当たって、映像を残したいと考えた。実地講習の模様もハイクアップもライディングも映像が残っていれば繰り返し復習できる。美しい景色も思い出も反芻できる。なんとこの計画に賛同してくれたのは「雪降る時に、」や「INSTALLERシリーズ」でお馴染みのIST picturesのMollyさん。プロのフィルマーに撮影してもらう機会なんてめったにあるもんじゃない!しかも編集してDVDにしたものを一人一枚ずつもらえるなんて、かなり贅沢じゃない?

そんなこんなで企画した神楽峰BCブートキャンプ。
隊員たちが体験したキャンプの模様を少しだけお伝えしよう。


「天気予報だと晴れるらしいですよ」
誰かが言った。
麓では薄曇りといった天気。青空は見えないが、厚い雲ではないらしく、光差す明るい曇り。

みつまたロープウェイのすぐそばにある民宿「みつまたロッヂ」に集合し、キャンプ開始の挨拶。
今回のガイドはTRIFORCE代表の永井氏と、同じくTRIFORCEの山崎氏(通称Zackyさん)。そしてフィルミングを担当してくれるのはIST Pictures代表の森氏(通称Mollyさん)。参加者は、まだ緊張しているのか表情が硬い。レンタルの装備一式を受け取って、いざ出発。
ロープウェイ、ゴンドラ、リフトと乗り継いで、3月1日より運行を開始した第5ロマンスリフトを使って、かぐらエリアのもっとも高い位置まで到着する。そこから上はスキー場の管轄外、つまりバックカントリーエリアとなる。すでに多くのバックカントリー愛好家たちが、板を担いでスノシューでハイクアップをはじめていた。視界は悪い。10m先の樹が見えない。

kagura1「それじゃ、視界が悪いんで、そのまま歩いてトラバースしましょう。そこで実地講習をはじめます」
永井さんが誘導する。
「雲、抜けてくれ!」
願いを込めて上空を眺める。
厚い雲ではないが、周りは一面白い世界。
kagura3永井さんとZackyさんが手早く雪を掘り始める。1.5m四方のピットが完成。断面を整えていくと積雪層の変化が見て取れるようになった。

視界がだんだんと明るくなりはじめたと思ったら、一気に雲が抜けた。周りの山々、そして自分たちが立っている斜面から斜面の下の方までくっきりと見えるようになった。さらに眼下には雲海。
ピットチェックの途中だったが、隊員たちから「おぉ〜!」と声が上がる。
しばし景色に見とれたあと、弱層のテストをはじめる。
垂直に切った雪の柱に、ショベルを乗せて10回ずつ叩く、手首から、肘から、肩から…、いっこうに崩れない。さらに強く力をかけると雪面から120cm程下の弱層から崩れた。まずは安定していると言ってよいだろう。 続いてプローブ(ゾンデ棒)を使って、雪の下に埋まったものの感触を一人ずつ体験する。まずはスコップを突いてみる。続いて、永井さんの手の甲を突いてみる。鈍い感触。
「人間の肉の感触を覚えておいてください。そしてもし友達が埋まってしまったとしたら、しっかり突いてください。突かれた人の片眼がつぶれたって、ほっぺたに穴が空いたっていいんです。生きてさえいれば何とかなります。生きたまま掘り出すことが大事なんです」
永井さんの生々しい発言に、隊員一同身が引き締まる。
kagura14「雪に埋まってみたい人?」
三人が手を挙げた。
チェック用に掘ったピットの中にうつぶせの状態で三人が川の字に並ぶ。
「はい、じゃあ脚の方からみんなで雪をかけましょう」
少しずつ埋まっていく3人。
「重〜い」
前日に雨が降ったらしく湿った雪はかなりの重さ。全体に30cmほど埋まったところで永井さんが声をかける。
「みなさん、静かにしてください。雪の中の人、聞こえますか〜?」
「ふぁーい」
雪の中からくぐもった声が聞こえる。
続いて小さな声で「聞こえますか〜?」とささやく。
また雪の中から「ふぁぁーい」と返事。
雪の中では外の音がはっきり聞こえるらしい。
しかし返事ははっきり聞き取れない。
「では自力で脱出してください」
「重ーーーーい」
雪面はもこっと動くが、体は抜け出せないらしい。
湿雪だったがわずか30cm埋まっただけで動けないとは…。
「二度と埋まりたくない!」
埋まった隊員たちは、貴重な体験をしたようだ。
天気も良くなったことだし、早速滑りますか?
永井さんが先にスロープを降りて無線で状況を伝える。続いてMollyさんが滑り降りてカメラを構える。無線の合図でZackyさんが隊員たちを斜面へと促す。
コケる!みんなことごとくコケる。急速に晴れた斜面はハレーション気味でコントラストがなくなり、雪面の変化がわかりづらい。加えて思った以上にスピードが乗ってしまうのに、スピードコントロールしようとすると刺さってしまう重雪。しかしコロがりながらも、みんなの顔は笑顔!青空の下、広大な雪面を一人ずつ滑るという状況に自ずとテンションも上がってくるようだ。やっぱりスノーボーダーだね。

そこから田代エリアに向かう沢を滑り降りる段階になると、またまた視界不良に。つまり先ほど見えていた雲海の中にいるらしい。
はぐれないように間隔を詰めて、少しずつツリーの中を滑っていく。ツリーの中は樹がある分、それほどつらくはない。しかしゲレンデに到着すると、視界の悪い開けた斜面。こっちの方が滑りにくいわ!

田代エリアからかぐらエリアへと滑り、かぐらゴンドラの降り場まで到着。
本来なら雪の上でランチする予定だったが、視界不良のため、ここでひとまずランチにする。
ここならトイレもレストランもある。屋台では焼きそばだってある。
さっきまでバックカントリーにいたことが嘘のよう。
バックパックに入れていたおむすびが、先ほどの転倒でみごとにつぶれている。
オレだけ?いやいや、みんなつぶれてる。

ランチが終わっても、視界は一向に晴れてこない。
それじゃ、ここでビーコンの使い方でも講習しましょう。
その間にZackyさんが、ゲレンデ上部の様子を見てくることに。
ビーコンの種類や、パルスの特性などを教わって、さぁではビーコン探索の練習をと思ったところで、Zackyさんから無線が入った。
「上の方は、青抜けしてますよ」
これは、行くしかないでしょう!!

kagura4さっそく準備してリフトを乗り継ぐ。第5ロマンスを降りたら、そこは雲の上の世界。す、素晴らしい!午前中にも増して美しい!!

さっそく板をザックにセットして、スノーシューに履き替えたら、いざハイク!
それ程、険しくはない雪原を永井さんに続いて一列でハイクしていく。隊員たちはスノーシューの履き心地に違和感を覚えながらも少しずつ歩を進める。
はじめてのハイクの隊員も多い。「案外楽ですね」という隊員もいれば「話しかけないで」という隊員もいる。永井さんが行程の途中で、雲海の上に顔を出している山々を説明してくれる。
「あれが、八海山、その奥に見えるのが越後駒ヶ岳、そしてその奥が中ノ岳。あの三つの山を越後三山っていいます」
わずか10分程度のハイクなのに、遙か遠くの山を眺めていると、なんだか恐ろしく遠いところに来た気がする。さらにハイクして行くと次の尾根にはハマの番長のリーゼントヘアのような雪庇ができている。
「あれくらいは小学生がつっぱってるようなもの。モノホンになるとあんなものじゃないです」
などと軽妙なトークを交えながら、雪庇の崩落による死亡事故があったことなどを教えてくれる。
kagura5小さな尾根で小休止して、いよいよ本格的なライディングエリアへ。
雪質の良さそうな北斜面を中心に、コースをチョイスするTRIFORCEの隊長たち。Mollyさんがセーフティを取れるところでカメラを構える。
順番に滑り出す隊員たち。午前の斜面より雪質もいい。斜度もかなりある。とうぜんテンションも上がる。イェーイと歓声も上がる。
しかしやはり転ぶ。
「みんなツッコミ過ぎ。普段の70%ぐらいで行った方が、転ばないし気持ちいいよ」
ファインダー越しに見ていたMollyさんからありがたいアドバイス。
何ヶ所か撮影しながら沢沿いに下っていく。

ゲレンデに到着した隊員たち。
「いや〜、よかった!」
「難しいっすねぇ」
「パーク滑ってる場合じゃない!」
などと口々に感想を述べる。

午前、午後合わせて滑走距離は3.5kmぐらい。
しかし距離に表すことのできない満足感がそこにはあった。
kagura8三角へ向かうルートにはすでに数組のパーティがハイク中。そろそろピークに到着しそう。
三角からの斜面には数本の新しいトラックがあるが、南向きで滑りにくそう。それに下の方にはクラックも見える。

「う〜ん、あんまり気持ちよさそうじゃないね」
「こっちの方が雪もよさそうじゃない?」
「あっちだとセーフティ取れるところないしね」

永井さんとZackyさんが相談し、ピークまでは登らず、中間にある手頃なボウルの方を攻めることに決定した。ルートが決定したところでランチタイム。

二日目、更に天候は安定し、朝から青空が広がった。
風もなく、気温も上昇。
「今日は、もっと奥まで探検しましょうか?」
と永井さん。
二日目ともなると勝手がわかってきたらしく、隊員たちも準備が早い。
さくさくっと第5ロマンス上まで到着すると、ちゃっちゃかスノーシュー履いて準備万端。すでにこの時点で汗ばむくらいの陽気だったため、隊長はじめ隊員一同、上半身はファーストレイヤー一枚ぐらいの薄着になってハイク開始。

前日よりも、黙々と、ほぼ立ち止まることなくハイクを続ける。25分ぐらいのところで一旦休憩、そして更に奥に見える通称三角と呼ばれる清八沢ノ頭の方まで進むことに。
南向きの斜面は、走水の跡が鯨の腹のように見える。
谷状になった部分が推定Bカップの谷間に見えるのは私だけか?
kagura9 kagura10少し雲が出てきたが、ハイクアップで汗ばんだ体には丁度いいかげり具合。
山の中は静寂で、時折吹き抜けるそよ風が気持ちいい。澄んだ空気の中で食べるランチは、また格別。普段食べているコンビニのおむすびがいつもより美味しく感じられるのもこんな状況だからだろう。

ランチを終えて、いよいよ滑走。
先に偵察に行った永井さんが珍しくバランスを崩している。
無線が入る。
「雪は滑りやすいけど、コントラストが無くて酔った。意外とスピードも乗るんで、コントロールしながら降りてきてください」
「了解です」
滑り出しの斜度は30度かもうちょいぐらいか?オープンバーンなので斜度があまり気にならないが、油断しているとスピードが出すぎる。途中微妙な雪面の変化もある。しかし、前日で学習したのか隊員のみんなもうまくスピードコントロールしながら転ばずに滑っている。できるだけトラックが重ならないように滑ると、気持ちよく弧を描ける。
「イェーイ!」「最っ高!」「ナイスラン!」
隊員一同、口々に讃え合う。

kagura12さらに撮影しながら、いくつかの斜面を進んで行く。
清八沢の南斜面にはクラックや雪崩の跡もあるので、北向きの片斜面を中心に滑走する。ギルランデしながらトラバースして、気持ちよさそうなノートラックに向かってシュート。サーフィンのボトムターンのように大きく切れ上がって、またつなぐ…。ああ、なんて気持ちいいんだろう。

kagura11ゲレンデが近づいてくると、雪質もシャバってくるが、のんびりファンライドしながら下っていく。

滑走距離は約2km。転んだりスタックしたりしないで滑れたので、納得の滑りができた2kmだった。
kagura15ゲレンデに到着すると、すごく日常に戻った気がする。
それだけバックカントリーは広大で、静寂で、幻想的だった。
おそらく、参加した隊員の皆さんも感じているだろう、いくら言葉を尽くしても、表しきれないもどかしさを。
体験したものにしかわからない荘厳で偉大な自然。
その場所には容易には足を踏み入れることはできない。
今回のようなガイディングがなければエリアやルートの選別もできないだろう。仮に行くだけ行けたとしても、無事に戻ってこられるという保証はない。
まだまだ私たちはひよっこなのだ。

永井さんが語る。
「経験を積むことで、自分の中のモノサシが少しずつ伸びていきます。そのモノサシが伸びれば伸びるだけ、踏み入れることのできるエリアは広がっていくんです」 永井さんの言葉を借りたなら、今回の体験で、私たちは何cmモノサシを伸ばすことができただろうか?
1cm?2cm?そんなものだろう。
しかし0cmではなくなったことは間違いない。

text&photo:Mr.


◆TRIFORCE◆
新潟県南魚沼市をベースとするマウンテンガイドサービス。バックカントリー初心者からマニアックなラインを求める上級者まで、経験豊富なガイドが皆様を楽しく安全に、とっておきの『山』へ。
◆IST Pictures◆
フリースタイル、アルペンを問わず、多くのライダー達に支持され慕われるMollyさんの紡ぎ出す映像は、常に斬新な視点でありながら、どこか懐かしく心地よい。

現在発売中の新作DVD
・INSTALLER 7
・雪降る時に、プラチナラベル 〜ワールドツアー編〜
・雪降る時に、ゴールドラベル 〜この板さばきをマネてみろ!編
・キッズスノーボード

今回、お世話になった皆さん

takumiTRIFORCE代表
永井拓三さんzackyTRIFORCEガイド
山崎 努さん  mollyIST Pictures代表
森 治人さん

今回の参加者:
ひらぎさん、ささきさん、なぁ♪くん、Joseくん、TKくん、とみぃちゃん、mamiちゃん、よっしーくん、あやちゃん、べっぷさん親子
Thanks a lot