AK457テクニカルディレクター。現在の竹内の肩書きのひとつだ。
80年代後半から数々のコンテストで好成績をおさめ、世界各地で競技と撮影を繰り返しながら多くのライダーとセッションを重ねてきた。その豊富な経験と卓越した滑走能力、加えて「滑るための道具」に対する豊かな感性こそ、現在のAK457を語る上で欠かせない。竹内はそのセンスを製品に生かすべく、現場からさまざまな意見をフィードバックしている。
主な現場は新潟県、頸城平野の南東部。北東から南西へと連なる開田山脈は、海から続く平野部と、千曲川が削り取った急峻な谷とを隔てるようにそびえ立つ。ここで竹内は、雪上車に乗って標高1000メートルを超えるエリアにアクセスし、手つかずの斜面を贅沢に滑る「光ヶ原キャットツアー」を率いているのだ。
ガイディングのフィールドは、スノーボードやウェアのテスト場としては最適だ。
「ツアーはシーズンを通して続きますから気温も天候も変わり続けます。ツアーオペレーションの中でハイクアップはほとんどありませんが、毎日の雪質チェックや安全確認、ルートの開拓にはハイクアップが伴います。オペレーションとその他のパトロールでは運動量が全く違ってくるわけです。
そういう気温差や運動量の差をどう吸収するか。慣れた現場とはいえ、僕にとってレイヤリングは、毎日頭を悩ませる問題です。だからこそ、ここで製品の本質を磨き込んでいくことができるわけです」
まず、目的を決める
何を着るべきか毎日悩む。その理由は竹内が単なるガイドとしてだけではなく、滑り手の目線で多くの機能をバランスさせようとしているからだ。
「レイヤリングの目的は防寒だったり、汗を早く乾かすことだったりします。けど、僕の場合はまず動きやすいこと。滑ることが最優先です。どんなに暖かくて快適でも、パフォーマンスを損なうようなレイヤリングに魅力は感じません。
次に考えるのは、汗をかきたくないということです。汗でウェアが濡れると体力を奪われるし、体も冷えてきます。
この二つを考えると、基本的には着すぎないことが重要だと思っています。オペレーション中も停滞するようなことはありませんし、基本的には動き続けていますから寒さがしみることはありません。基本的に、新潟ならベースレイヤー、ミッドレイヤー、シェルの3枚で完結ですね」
さらに、重要なポイントがある。保温性に優れたミッドレイヤーがあったとして、形がシェルとマッチしていなければ動きやすさは生まれてこない。わずかな縫製位置やシルエットの違いは動きをじゃまし、ストレスにつながり、疲労を呼ぶこともある。
「トータルバランスがものすごく大事です」
と竹内は力説する。
「ミッドレイヤーが単体でいくら優れていても、ウェアを着て滑ってみて、動きにくかったとしたら、それは意味がないですからね」
ベースレイヤー 汗と保温をバランスさせる
では具体的に竹内のレイヤリングを見ていこう。
「ベースレイヤーは長袖か半袖かで悩むことが多いですが、ハイネックフリースを選んでしまうことが多かったですね」
AK457のテクニカルディレクターだけあって、竹内のレイヤリングは理論的だ。さらに、製品にはその目的と機能が明確にこめられている。
「ベースレイヤーの生地は暑くなりすぎないよう薄くして、汗抜けをよくしました。同時にマイクログリッドと呼ばれる立体構造を取り入れています。小さなでこぼこが空気をため込んでくれるから、アウターのファスナーをしっかり閉めていれば暖かいんです。
このベースレイヤーも最初はバラクラバのような形をしたフード一体型だったんです。けれどフードがほんの少しだけ、首の動きを邪魔するんですよね。それもあって、上半分をカットしています。これなら首もとを保温しながら、寒い日はフェイスマスクとして使えるし、首の動かしにくさも解消します。マスクとしてのフィット感はかなり煮詰めました。それもあって、かなりいいものに仕上がってきました」
ミッドレイヤー 防寒レベルはここで調整
保温のために中綿入りのジャケットを着るようなことはない。暖かさはミッドレイヤーで作り出す。そのミッドレイヤーはハイブリッドジャケットとミッドフリースジャケットの2種類だ。
「ハイブリッドジャケットは薄いながらもダウンを封入して抜群の保温力にしました。けれど、脇や裾の部分はフリースにしています。人間の体は部位によって体温も汗のかきかたも部分によって違いますから、それに合わせて保温力を調整しているんです。
少し気温が高い、あるいは運動量が多くなる日はストレッチ性のあるミッドフリースジャケットを選びます。透湿性が高くて速乾性に富んでいるし、暑くなってもシェルのファスナーを開ければ一瞬でクールダウンできます。汗をかきそうだなと思ったらすぐに対処できるのはメリットですね」
ミッドレイヤーにはフリースのパンツもあり、ある程度外を歩けるデザインを意識している。藤原ヒロシ氏らが意識している、上下ミッドで山に行き、着いたらシェルを着て滑るという東京出発のスタイルを想定したものだ。これをうけて、ある程度外を歩けるデザインにしている。
「あとはパッカブルダウンジャケットですね。これは必ずバックパックに入っています。自分が寒いときに備えるのと、お客さんに何かあれば貸してあげることができます。バックアップの保温着として不可欠ですし、極寒の時にはこちらを着てハイブリッドジャケットをバックアップに回します」
シェル 汗を抜き、風雪を遮る
シェルはジャケットとパンツを含めた呼び方。貝殻のように、外気を遮断する役目を担っていることからこう呼ばれる。竹内の場合、シェルはほぼガイドジャケットとハイトップパンツでキマリだ。どちらもGORE-TEXRを使い、ウェア内の湿気を効果的に放出しながら、雨や雪からガード。防水透湿素材として最高のパフォーマンスと、シーズンを通じて酷使してもへこたれないタフさを誇っている。
「こうした湿気だけを通過させて風や雪を遮ることができれば、ウェアの中の暖かい空気をずっとキープできる。それはやっぱり快適さに直結する機能なんです」
と竹内はGORE-TEXRの優位性を語る。
「あとは細かなことで言えばジャケットにトランシーバーポケットをつけていたり、パンツにはビーコンポケットがあったり。現場のガイドオペレーションから生まれたニーズを形にしています」
アウターもミッドレイヤーやベースレイヤーと重ね、実地テストを何度も何度も繰り返している。さらにマッチングを追求するため、アウターを改良すればミッドレイヤーにも改変が及ぶ。あちらを変えれば、こちらも変わるという改良の連携を積み重ねながら、シーズンを通じてオペレーションの中で使い込む。そうすることで気になるところを洗い出し、また次の製品へとフィードバックするのだ。
トータルバランスの結晶
ベース、ミッド、シェル、それぞれの製品は単体で使っても十分に評価できる品質を備えている。しかし、組み合わせることで新たな良さが浮き上がってくるはずだ。だからここはこの縫い方なのか、だからこここはこのサイズ感なのか。細かなスペックの累積の中に、AK457がひとつのブランドの中でレイヤリングを完成させようとしている意味が潜んでいる。
「やっぱり何が大事かと言えばトータルバランスなんです。僕らが作ってるのは街着じゃない。暖かければいい、かっこよければいいというものではないです。まず滑れること。スノーボーダーなりガイドなりの目的に合致していること。その上で、パフォーマンスを発揮し続けることができる、快適なウェアを目指しています。
僕のレイヤリングはウェアの使い方の一例です。もっといい使い方もあると思うんですよね。だけど、適当に着るんじゃなくて、目的を持ってシステマチックに組み合わせることができれば、滑り手にとって動きやすいウェアリングができる。そのあたりを感じ取ってもらえれば嬉しいですね」
(文中敬称略)
TEXT:TAKURO HAYASHI
PHOTO:ALI